今回のドラマには立体的脚本の他に、いくつもの見所があります。以下3点あげてみたいと思います。
1.橋本愛という女優
トラコという役割を心から楽しんで演じていることが活き活きと伝わってくる。メリーポピンズ風、寅さん風、魔性の女風、若奥様風とコスプレのようにくるくる変幻していく橋本さんが見所です。
優しい口調でしゃべっていたかと思えば、ガラッと変わって弾丸トーク、啖呵を切る。ツンツンしていたかと思えば、お笑い芸人のようにおどけたり。さまざまなキャラクターに変転。それも、外側の風貌をなぞるだけではなく、しっかり人格を押さえながら切り替えていく橋本さんが最大の見所です。
2.三人の母親のキャスティング
板谷由夏、美村里江、鈴木保奈美。3人の母親のラインナップに注目しないわけにはいきません。かつては美しさ可愛らしさで鳴らしていた女優たちも、今ではいかに中堅の味わいある役者として演技力をアピールし円熟味を見せるか。3人ともに勝負どころだからです。
板谷さん演じる下山智代は、定食屋を営むシングルマザー。大雑把な性格でお金に苦労しているが性格が明るい。美村さん演じる中村真希は新聞記者。インテリママゆえ娘を名門私立小学校に通わせたいとトラコに1回1万円の授業料を支払う。鈴木さん演じる上原里美は裕福な家庭に入った後妻。元は銀座のホステスで、私生児として生まれた息子を東大に入れようと躍起になっている。という、3者3様バラバラの女たちの生き様を、いかに立体的に描くかが後半の盛り上がりのポイントでしょう。
3.中村蒼
福田というトラコの秘書を演じる中村さんは、受け芝居がすごく上手い。トラコの激しい性格を柔らかくキャッチする男ぶりが、これぞ絶品なのです。
個人的に中村さんの名を最初に記憶したのはNHKドラマ『洞窟おじさん』(2015年)でした。山奥の洞窟に隠れ住み、髪の毛はぼさぼさ、真っ黒い顔をした野獣スタイルの青年を演じた中村さんに心底驚かされました。今ドキの役者では簡単に演じきれない、圧倒的な存在感やリアリティがあったからです。一方で、中村さんは大河ドラマに朝ドラと王道もコツコツと歩いてきた役者さん。
そして今回の福田という役はトラコを受容し支える、しなやかさが光っています。他の男優に類を見ない中村さんの個性的な魅力が全開中です。
第四話まできた物語は、子どもたちの問題解決に続き、三人の母親をターゲットに展開し始めました。お金にこだわるトラコの背景にも何か深い理由がありそう。立体的脚本の仕掛けと企みがいかに着地していくのか。後半が勝負でしょう。