3年ぶりに行動制限なしとなった夏休み。街中で目立つのは、無料のPCR検査所に並ぶ長蛇の列だ。帰省や旅行前に検査しようと駆け込む人々を見て、都内在住の50代女性が不思議そうにこう語る。
「そもそも検査にはさまざまな費用がかかるはずなのに、なぜ無料なのかしら。しかも検査したら商品券をもらえるところまであるというニュースを見たけれど、一体どういうことなのか……」
この女性の言う通り、都内には500円の商品券がもらえる無料PCR検査所がある。
「都内で検査を行う事業所にはキットなどの実費のほかに各種経費として、1検査あたり3000円が都から支払われます。この3000円をどう使ったか明らかにする必要はないため、事業者は500円の商品券を払って集客しても手元に2500円残る。つまり検査人数を増やせば増やすほど儲かる仕組みです」(全国紙社会部記者)
タダでPCR検査を受けられるのは、そこに公費が投じられているからだ。2021年度の補正予算では、街中の無料PCR検査等に3000億円程度の予算がついた。横浜市立大学大学院データサイエンス研究科准教授の五十嵐中さんが指摘する。
「ほとんどの無料検査は、陽性でも厚生労働省のコロナ感染者管理システム『HER-SYS』に登録されず、改めて受診する必要があります。診断・予防・データ収集、どれも貢献度は低く、キット不足など医療機関に負の影響をもたらす可能性すらあります」
オミクロン株のまん延により、新規感染者数が3週連続で世界最多となった日本。感染者数は高止まりし、4回目のワクチン接種に続く5回目の接種が今秋に予定される。だが3年目を迎えたコロナ禍で求められるのは、コロナ対策にかかる費用と、得られる効果のバランスを見極めることではないか。前出の50代女性もこう問いかける。
「そう言えば、PCR検査だけでなく、ワクチンも無料ですよね。一体、いくらかかっているのでしょうか」
ワクチンをはじめとするコロナ対策のコストはいかほどだろうか。
当初「95%の感染予防効果がある」とされたワクチンだが、大半の日本人が2回接種を終えてもコロナ禍は収束を見せず、いつの間にか接種目的が「重症化予防」に変わった。先行きが見えない状況に、ワクチン費用はかさむばかりだが、1回ワクチンを打つのにいくらかかるのか。
ワクチン価格は最重要の機密事項であり、各国政府やワクチンメーカーはワクチンの「お値段」を明らかにしない。だが財務省によると、国はワクチンの確保や接種にかかる費用として計4.7兆円を投入した。名古屋大学名誉教授の小島勢二さんが指摘する。
「国は、ファイザーやモデルナなど4社から8億8200万回分のワクチンを購入するために2.4兆円を費やしました。そこから、接種1回分の平均価格は約2700円とみなせます。また医療機関に支払う1回あたりの接種費用は2070円ですから、1回の接種にかかる費用は4770円と仮定されます」