国民の批判をかわすために内閣改造するのは政治の常套手段だが、これほど見事に“疑惑隠し”に失敗したのは珍しい。
「新たに指名する閣僚だけではなく、現閣僚も含めて当該団体(旧統一教会。世界平和統一家庭連合)との関係をまずしっかりとそれぞれ点検してもらい、その結果を明らかにしてもらう」
岸田首相はそう語って旧統一教会関係大臣を排除する方針で内閣改造に臨み、同教団との関係を認めていた閣僚7人を交代させ、教団ととくに関係が深いとされる安倍派からは故安倍晋三・元首相の実弟である岸信夫・前防衛相、安倍側近だった萩生田光一・前経産相、末松信介・前文科相の主要閣僚を閣外に出した。
ところが、フタをあけると新内閣にも8人の大臣が旧統一教会と関係があることが判明。改造前と同じ4人が起用された安倍派の大臣では、新入閣の岡田直樹・地方創生相、西村明宏・環境相の2人が教団との接点を認めた。
そればかりではない。岸田首相は、参院選前の6月に安倍派の新人候補だった生稲晃子氏とともに旧統一教会関連施設を訪問するなど教団との深い結びつきが指摘されている萩生田氏を自民党3役の政調会長に昇格させ、「選挙の際もお手伝いをいただいている」と教団との関係を認めた岸氏も国家安全保障担当の総理補佐官として官邸入りさせた。
なぜ、排除できなかったのか。内閣改造の背後で動いたのは安倍派元会長の森喜朗・元首相だった。
改造前の8月3日、岸田首相は都内のホテル内の日本料理店で森氏、その盟友で“参院のドン”と呼ばれた青木幹雄・元官房長官と会食した。いずれも政界を引退しているが、いまなお自民党内に隠然たる力を持つことで知られる。政治ジャーナリスト・藤本順一氏が語る。
「安倍元総理の死去の直後から萩生田、西村康稔の両氏と元安倍派の高市早苗氏が後継者に意欲を示して収拾がつかず、安倍派は分裂含みの様相を見せていました。そこに元会長の森さんが間に割って入り、どうにか派内は結束を保った。森さんがいなければ今頃、安倍派は崩壊していたかもしれません。
先の組閣人事で岸田総理はそんな森さんの意向を無視できず、萩生田氏を政調会長に起用し、ライバルの西村氏をその後釜の経産相に就けてバランスをとった。加えて政調会長でありながら岸田総理と対立してきた高市氏を入閣させたのも森さんの意向に沿ったものと言われています。つまり、森さんが健在であり、派閥をまとめている間は最大派閥の安倍派は依然として力を保ち、岸田総理も言うことを聞かざるを得ない」