ヤクルトが早くから独走態勢を築き、史上最速でマジックが点灯する展開となった今季のセ・リーグだが、ここにきて他チームが追い上げを見せている。6連勝のDeNAが首位と4ゲーム差の2位につけ、開幕9連敗で絶望的なムードが漂っていた阪神も、8月21日までの対巨人3連戦で宿敵を3タテと圧倒して3位というクライマックスシリーズ(CS)圏内に浮上している。明白な1強だった7月初旬とは空気が大きく変わったわけだが、関係者もどう対応するかで複雑な思いを抱えているようだ。
8月20日の巨人戦では、阪神の藤浪晋太郎が7回1失点の好投を見せ、昨年6月以来となる白星をあげた。これまで制球難に苦しんできたのがウソのような無四球のピッチング。140キロ台後半のスプリットで打者を幻惑させ、この勝利でチームは2年連続となる対巨人戦の勝ち越しを決めた。
7月4日時点で最大17ゲーム差あった首位ヤクルトとのゲーム差は現在、9ゲーム差に。8月23日からのDeNAとの3連戦の結果次第では、2位浮上も視野に入ってくるところまで盛り返してきた。今季は開幕からドロ沼の9連敗で、春先の早い段階から“終戦ムード”が漂っていたが、ここにきて息を吹き返してきているのである。
CS進出となれば、開幕当初のどん底状態から大逆転の日本一さえ見えてくる。仮にヤクルトがリーグ1位でペナントレースを終えたとしても、今季ここまでの神宮球場でのヤクルト対阪神は5勝5敗と五分の星だ。ホーム球場で試合のできるヤクルトを相手に、阪神がCSファイナルステージに進出した際に善戦できる可能性は決して低くない。
何より、短期決戦では投手力がカギを握るのがセオリーだ。阪神は12球団ナンバーワンとも言われる投手陣を誇り、チーム防御率2.52はリーグで唯一の2点台。しかも、ピッチャーに疲労の出てくる夏場に、開幕投手を務めて以降、苦しんできた藤浪が復活してきたことも大きい。CS進出、そしてその先にある日本一の可能性に向けたラストスパートに入っている状況である。
この時期になると注目されるのが、3位以内でCS進出を確定するための最少勝利数を示した「CSクリンチナンバー」だ。ヤクルトの失速でセ・リーグは全球団に出ており、阪神は25(8月20日時点、以下同)となっている。在阪紙記者はこう言う。
「CSクリンチナンバーは残り試合に対してどれだけ少ないかが重要で、ヤクルトが残り34試合で18、DeNAが39試合で25となっているのに対し、阪神は3位だが29試合で25、巨人は30試合で28、広島は29試合で26となっている。阪神以下の3球団はまだ横一線で、ここからが正念場です」
思えば今季開幕前は、安定した投手力が期待できることなどから、阪神をリーグ優勝候補にあげる評論家も少なくなかった。それがフタを空けてみれば開幕から絶不調で地獄を見ることになり、今季は期待できないというムードが漂うと、今度は反転攻勢が始まった。「期待すれば裏切られる、というのが阪神ファンにとってのトラウマ。最近の戦いぶりは楽しみではあるが、応援する側が盛り上がりすぎると失速するのではという恐怖もあって、どう反応すべきか迷いがある」(阪神ファンの50代男性)という複雑なファン心理もありそうだ。