千葉・鴨川シーワールドは、創立52年を誇る老舗の水族館。観覧の目玉は、何と言ってもシャチによるパフォーマンスだ。
現在、国内の水族館で飼育されているシャチはわずか7頭。そのうちの4頭が鴨川で暮らす。パフォーマンスを披露するのは鴨川シーワールドだけである。
今年は3年ぶりに、コロナ禍で中止されていた夏の名物パフォーマンス・サマースプラッシュが再開された。シャチが尾びれで客席に海水をかけるため、前列の観覧客は雨合羽を着てスタンバイする。体長5メートル、体重2トンを超えるシャチが水しぶきをあげる姿は圧巻の一言だ。再開の影響もあり、一時は半数以下に減ってしまった来場者数も、今年は7割程度まで戻ってきたという。
トレーナーの小松加苗氏は3年ぶりのパフォーマンスの感触をこう語る。
「パフォーマンスを見たお客さんが喜んでくれる瞬間が一番嬉しいです。シャチたちは餌のためだけにパフォーマンスをしているわけではありません。トレーナーとの信頼関係があって成り立っています。ジャンプなどの技も見所ですが、それが終わってシャチがトレーナーの元に戻ってきた時の触れ合い方、接し方を見ていただけると、また違った面白さがあると思います」
サマースプラッシュは8月末まで開催予定。猛暑日が続く中、房総半島の夏の名所で全身ビショ濡れになるのも一興だろう。
水族館の繁忙期である8月は猛暑が続くため、スタッフたちは動物が暮らしやすい水温・水質の維持に努めている。動物によって適切な水温は異なり、「シャチのプールは水温16度以下に調節しています」(広報担当者)という。
こうした「動物ファースト」の意識はすべてのスタッフに共有されている。前出のシャチトレーナー・小松氏が言う。
「毎日シャチの検温を行ない、すぐに体調の変化をキャッチできる体制を整えています。シャチは4頭で1日約300キログラムの餌を食べるので、餌の準備にも気をつけており、餌の魚1匹1匹に傷がないか、釣り針が残っていないか確認しています」
鴨川シーワールドでは今年、ベルーガの赤ちゃんが生まれたが、親子の育成環境を優先して一般公開されていない。「あくまでも動物が第一」という理念が貫かれているのだ。
撮影/惠原祐二 取材・文/田中周治
※週刊ポスト2022年9月2日号