寿命が延びることで社会問題となっているのが、高齢者の「多剤併用」だ。厚生労働省の最新統計(2021年)によると、「7種以上の薬を処方されている人」は75歳以上では24.2%に上った。
特に多いのが、「血圧」「血糖値」「コレステロール値」をコントロールする生活習慣病の薬だ。新潟大学名誉教授の岡田正彦医師が指摘する。
「高齢になると体調不良の部位が多くなり、様々な専門科を受診することで薬がどんどん増えてしまいます。薬に頼りきるのではなく、食事や運動といった生活習慣を見直し、薬を減らす意識が大切です」
とはいえ、患者の判断でいきなり薬を減らすのは危険が伴うため、医師の指導の下“断薬”に取り組む必要がある。いつき会ハートクリニックの佐藤一樹医師が語る。
「大事なのは患者の症状や特徴に薬があっているかどうかです。高血圧の場合、血管の拡張性と塩分摂取量を検査します。高齢者は血管の拡張性が悪い人が多く、そうなるとカルシウム拮抗薬以外は降圧を得られ難いこともあります。
もし効果が得られない降圧剤を服用しているようであればその薬は断薬したほうがいいでしょう。また塩分摂取量が多い人は、サイアザイド系利尿薬を飲めばほかの薬はいらないケースがあります」
降圧剤は「薬の系統」にも着目したい。
「降圧剤はカルシウム拮抗薬、ARB、利尿薬の3系統が基本です。同じ系統の薬が重なっていたら別のタイプに変えたり、統合して量を調整することができます。血圧の薬だけで3種類以上飲んでいるなら専門医に相談してほしい」(佐藤医師)
糖尿病治療薬は「スタートが肝心」という。
「最初の診断後に薬に頼るのではなく、できるだけ食事療法や運動で改善させたい。糖尿病治療薬は自己判断で必要な薬の服用回数を減らしてしまう場合が多く、1日3回服用するメトホルミンの場合、DPP阻害薬やSGLT2阻害薬に変えると1日1回の服用にできます。また、高齢者は血糖を下げる作用が強いSU剤の量を最小限にしてほしい」(佐藤医師)
脂質異常症治療薬については「断薬」という判断をすることもある。
「高齢者でコレステロール値が高く心筋梗塞など心血管系の持病がなければ、薬をやめることも選択肢です。またスタチン系の薬は肝機能低下や筋肉痛などの副作用があり、必要に応じて中止や薬の変更をすることが大切です」(佐藤医師)