NHK朝ドラ『ちむどんどん』の放送も残り約1か月となり、クライマックスが迫る。主人公・暢子(黒島結菜)の結婚と妊娠、そして独立開業と怒涛の展開が続くなか、ドラマオタクのエッセイスト小林久乃氏は、中盤以降に登場し、主人公の姑・重子を演じる女優・鈴木保奈美に注目しているという。その演技の魅力とは何か。小林氏が綴る。
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朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)で、ヒロインの暢子(黒島結菜)が青柳和彦(宮沢氷魚)と結婚、そして妊娠。同時期にかねてからの夢であった、シェフとして独立開業することになった。これまでのドラマの筋書きに対して色々と物申したいことはさて置き、やっと“物語”が稼働した気がする。
個人的には稼働の立役者のひとりとして、女優の鈴木保奈美さんの名前を挙げたい。和彦の母親・重子役で登場、そして暢子との結婚を徹底的に反対した。グッと子どもたちを睨み、いびる様子。ここに見えたのは、故・野際陽子さんの片鱗だった。
結婚を認めるまでは「重子劇場」
青柳重子は資産家の令嬢として育ち、和彦の父親との結婚は親が決めた縁談だったという。そのためか夫とはまったく愛情が通っていなかったと主張するのは、本人談(実はその後に夫の愛情を受けた話もあった)。夫は病死してしまい、未亡人になった重子は大きな屋敷で女中と暮らしている。
そんな重子と暢子の間に、大きな格差が生じても不思議はない。暢子は上京後にやっと普通の生活をできるようになったけれど、出身地の沖縄県では実家が借金に追われる生活をしていた。学歴も資産もない。あるのは、和彦への愛と、料理に対する情熱のみ。この格差を持って、重子が気に入るはずもない。
「(嫌味として)……楽しいお嬢さんねえ?」
「結婚は許しません」
「(和彦に)結局、母さんの言う通りにして良かった……と思う日が来る」
結婚を認めるまでの間、毎朝繰り広げられていた重子劇場。興信所で暢子の身辺調査をすることなんて、お手のもの。当時、和彦が勤務していた新聞社まで押しかけて、二人の仲を引き裂こうとする。そんな重子の様子は見ていて面白かった。途中、重子の反対路線が突然変わって、暢子が仕事を続けていくことを理由に入れてくる昭和風味もなんともまた……。そこに女優・鈴木保奈美の存在感はたっぷりで、一瞬は主役喰いをしているようにも見えた。
その向こうに見えたのがかつてドラマの姑役で名を馳せ、2017年に惜しまれつつも亡くなった女優・野際陽子さんの演技である。