前回(週刊ポスト2022年9月2日号)はがん細胞にウイルスを感染させ、細胞内で増殖、死滅させる新しいウイルス療法の作成方法を報告した。現在、高齢者の男性に多く発症する食道がんに対し、アデノウイルスにテロメラーゼという酵素に反応するプロモーター(スイッチ)を組み込んだがん細胞融解ウイルス製剤『テロメライシン』の試験が実施されている。今回はより詳しく『テロメライシン』の効用を紹介する。
食道がんは世界全体で患者の約70%が男性だ。50歳代以降に発症が増え、70~80歳代でピークを迎える。食道がんは嚥下機能や呼吸機能への影響が大きく、さらに広い範囲のリンパ節切除を伴う手術や抗がん剤治療が難しい症例が増えており、低侵襲な新しい治療法が待望されていた。
そこで食道がんにがん細胞融解ウイルス製剤『テロメライシン』と放射線併用の臨床研究が実施されたのだ。
評価できる12例中11例で腫瘍縮小が認められ、うち8例では腫瘍が完全奏効(消失)し、残り3例も部分消失が確認された。重篤な副作用はなく、安全も確認されている。
前回に続き、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学の藤原俊義教授に聞く。
「この『テロメライシン』がヒトのがん細胞に感染すると、1日で10万~100万倍に増え、がん細胞を破壊します。前回で説明したように正常細胞にはテロメラーゼ活性がないので、ウイルスの増殖はほとんどありません。しかも『テロメライシン』には放射線に対する感受性を増強する効果があることも判明しました」