映画『この世界の片隅に』の序盤は長閑な自然や日常の音に満たされている。戦争が激化するにつれて、その空間に兵器による無機質な金属音が侵食してくる。こうした音の変化の狙いについて、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、音響効果を担当した柴崎憲治氏に話を聞いた。
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――米軍の戦闘機が飛来し、機銃掃射してくる時の音の怖さはとてもインパクトがありました。
柴崎:あれは、アメリカにあるライブラリーに実際のグラマン(艦上戦闘機)の音があるんです。その音に『男たちのYAMATO』の時に使った十二・七ミリの機関銃による金属音を足しています。グラマンは飛ぶ時に真鍮の薬莢を落としていくんです。やっぱり金属のキンキンする音は怖いですね。
――焼夷弾の落ちてくる音も怖かったです。
柴崎:実際の焼夷弾は、ああしたヒューヒューという音で落ちないそうです。実際に空襲を経験した人に聞いてみたら、「あれはな、鉄片が落ちるんだ」と。鉄の破片がバラバラ、ガチャガチャって落ちるような音なんだと言われまして。
ただ、そこは「嘘」でもいいから、ああいうヒューッという音にしないといけない。人の恐怖感を煽らないといけませんから。弾がバラバラと落ち、バンと火がつき、バアーっと燃え広がるだけだと「これは怖いものだ」と分からないんです。
――たしかに、あのヒューッという音によって、死が間近にある恐怖が伝わってきました。
柴崎:ああいう高い音が入ることによって、危険な匂いが出るんですよね。人に恐怖感を与える音っていうのかな。それを使うことで、戦争がいかに怖いものかっていうのを分かってほしかったんです。
――実際にはあのヒューッという音が出ないとすると、どのように作られたのでしょうか。
柴崎:銃を撃った時の擦過音や弾道音がライブラリーにあるんです。そこに、風切り音を足しています。風のピューっという呻りの音を録って、そのピッチを後で変えることで、作中の音にしています。
ヒューンという音だけでも二、三種類の音があるんです。それを広げたり狭めたりしながら、金属音を足したりして。それは「作られた世界」なわけですが、大事なのは、観る人にとってそれがさも本物のように聞こえることなんです。爆弾の怖さ、焼夷弾の怖さ、ひいては戦争の怖さを、あの音から感じ取ってくれたらいいと思っていました。