【インタビュー】川合伸幸さん・監修/『「脳のクセ」に気づけば、見かたが変わる 認知バイアス大全』/ナツメ社/1650円
【本の内容】
《職場や家庭での何気ない言葉に、自分では気づかないバイアスが潜んでおり、知らないうちに他人を傷つけているかもしれません。あるいは自分の思考のクセのせいで、不要な悩みを抱えているかもしれません》──「はじめに」に綴られた一節だ。知らなかった、では済まされないバイアスの数々が本書には網羅されている。新型コロナウイルスのことや家庭での夫婦のやりとりなど、卑近な例を織り交ぜながら、平易な言葉で挙げられるバイアス事例の数々には、目から鱗が落ちて、人間関係の改善に繋がりそうです。
「あなた死にますよ」の言葉にドキッとする理由
自分は合理的に判断しているのに、相手が感情的だからうまくいかない。家庭でも職場でも、そんな風に感じることがある。
そう感じるのは、もしかしたら「認知バイアス」のせいかもしれない。私たちの脳の働きには実は「クセ」があり、思い込みや経験、他人からも影響を受けるので、合理的に判断できていないことがある。バイアスとはつまり、ゆがみだ。
『認知バイアス大全』は、心理学や認知科学、行動経済学などの実証的研究に基づき、そうした事例を幅広く集めた本だ。人間関係のバイアス、組織を停滞させるバイアス、消費者と市場のバイアス、偏見や差別、思想と政治のバイアスなどに分類してわかりやすく説明していく。
本を読むと、こんなにもたくさんのバイアスが存在していることにまず驚く。
他人をカテゴリー分けし、どんな人かを決めつける「代表性ヒューリスティック(ヒューリスティックは迅速な思考方法)」や、一部の欠点に引っぱられて「いやな人」だと思い込む「ホーン効果」など、これまでバイアスだとはとくに意識していなかったが、そう言われると思い当たるふしがある。
年末ジャンボ宝くじの利得期待値は142.99円で、1枚300円かかるコストの半分以下だが、7億円当てる気になっているときにはそんなことに気づかない。同様にがんの発症率は2人に1人なのに、なぜか「自分はならないだろう」と確率的には非合理な計算をしてしまうのも認知バイアスのなせるわざだ。
「人間は生き物なので必ず死にます。だけど、『あなた死にますよ』って言われると、ドキッとしますよね。これは、『自分は死なない』と、どこかで思っているからなんです」
本の監修にあたった川合伸幸・名古屋大学教授(心理学、認知科学)はそう話す。
川合さんによれば、認知バイアスへの関心が高まったのには、2年前、新型コロナウイルスの感染が拡大したこともあるらしい。
「この言葉が、新聞などでも広く取り上げられるようになりましたね。コロナの感染リスクは、低く見積もる人もいれば、すごく高く見積もる人もいます。感染が始まったころはかたくなにマスクをつけようとしない人がいました。いまは逆に、大丈夫そうな状況でも絶対、外さない人がいますけど、過剰なのも過少なのも、どちらにも認知バイアスが働いています」
コロナ禍に、「コロナなんてただの風邪」という言説がかなり広まったのも、自身の心の安定を求める、一種の「正常性バイアス」からだ。