現在は、プロデューサーも兼ねることが多くなったが、演じることに加え、映像にも並々ならぬ情熱を注いでいる。
2003年以降、トムの来日会見で司会を務める映画パーソナリティーの伊藤さとりさんは、彼のこだわりについて次のように話す。
「トム・クルーズは“リアル”にこだわる人です。“マーヴェリック”でも、彼はもちろん、共演の俳優たちも、G(重力加速度)のかかる高速の戦闘機に乗って演技をしています。CGを使って乗っているように見せることだってできるのに、彼がそれを許さないのは、『映画であっても、うその映像があってはいけない』という彼のポリシーによるものでしょう」(伊藤さん・以下同)
今回“マーヴェリック”を作るにあたっては、トムの中には前作を超えるものでなければならないという強い思いがあったのではないか、と伊藤さんは続ける。
「プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーと一緒に、前作を何十回と見直して、『戦闘機が飛んでいるところは、もっと迫力のある方がいい』などと、話し合って考えたとトム自身が語っていました。
いつもなら、会見で質問されたことに対して、2分くらいで回答が終わるのに、“マーヴェリック”では5〜6分は話していた。それほどまでに、強い思いがあるのだと感じましたね」
映画字幕翻訳家の戸田奈津子さんは、今作のせりふを訳すにあたり、こんなことに気を配ったという。
「トムは無類の飛行機好きなのですが、“マーヴェリック”はパイロットの話でもあるため、監修を、元航空支援集団司令官空将の永岩俊道さんにお願いし、本物のパイロットが見ても納得できるような字幕にしました。だから、いまのところ“あれはおかしい”といった声はありません。トムにも、『今回、素晴らしいアドバイザーについてもらった』と伝えたら、喜んでくれました」(戸田さん・以下同)
トムが来日した際に、戸田さんは、永岩さんはじめ、航空自衛隊のパイロットたちを招き、トムと話をする機会を設けたという。
「彼らから直接感想を聞いて、トムは喜んでいましたよ、トムは飛行機マニアですから。ふだんの移動に使うプライベートジェットはじめ、昔の戦闘機も彼はいくつか持っているようです。日本の零戦やドイツの戦闘機についても、そんじょそこらの知識では太刀打ちできないほど詳しいんですよ」
ちなみに“マーヴェリック”にも、彼のコレクションが登場している。
「映画の最初と最後に、トムが所有している戦闘機が登場しています。彼は『マイプレイン(ぼくの飛行機)だ』と言っていました。ほかにも格納庫に、いろいろと持っているみたいですよ」
何事にもこだわりが強く妥協がないトム。それが画面にも表れている。
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2022年9月15日号