強すぎる体臭や香水などでまわりに迷惑をかける「スメルハラスメント」、妊婦への差別的な言動「マタニティハラスメント」、顧客(カスタマー)からの度を超したクレームや要求「カスタマーハラスメント」など、具体的な内容を示すハラスメントが認識されてきた。最近、関心が高まっている視線によるハラスメント、「見るハラ」はいまだ自意識過剰で片付けられる事もあるが、被害者の傷は浅くない。ライターの宮添優氏が「見るハラ」被害者の声をレポートする。
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視線によるハラスメント、「見るハラ」といえば、それについて話題になったり指摘があると、主に男性の一部の人たちから「偶然見てしまうのも悪いのか」「普通の生活ができない」と反発の声があがるかもしれない。しかし、その見るハラを訴えている女性達の生の声を聞けば、被害者達は我々が思う以上に、つらく、悲しい思いをし続けている実態が浮き彫りになる。
「最初は同期女性にも言いづらかったんです。実際、気心の知れた上司に打ち明けた時に”自意識過剰”って笑われて…」
都内の不動産会社に勤める澤井由紀さん(仮名・20代)が、初めて「見るハラスメント」の被害に遭ったのはコロナ禍前の夏。暑さ、そして日焼け対策にノースリーブとカーディガンというスタイルで出社していたが、オフィス内でカーディガンを脱ぐと、男性社員の視線を感じた。しかし、女性上司も似たような格好をしているし、もしかしたら女性社員が少なからず、このような不快な思いをしているのかも知れない。そう感じて、女性上司に打ち明けたのだが笑われたのだ。
そして後日、社内の飲み会で、澤井さんは想像を絶するハラスメントを受けることになる。
「女性上司が、私が相談した内容を酔っ払って話してしまったんです。最初はとても恥ずかしく、勘違いだ、自意識過剰と言われると思ったんですが、ある男性社員が”俺はずっと(澤井さんの体を)見てる”と言い出し、場が盛り上がってしまいました」(澤井さん)
酔いの勢いも手伝い、そこにいた男性社員が次々に澤井さんの体を見ている、どのパーツがお気に入り、などの話を始めたのである。澤井さんは「必死で笑顔を作っていた」というが、このハラスメントの恐ろしさに打ち震えたのだと話す。そして「見るハラ」を受けている人の中には、増え続ける「盗撮」の被害者であることも少なくない。
都内のデパート勤務・森下英恵さん(仮名・20代)を取材した日の気温は33度を超え、日向に立っているだけすぐに汗が噴き出すほどだったが、袖の長いTシャツを着用している森下さん。日焼け防止のためかと問うと返ってきたのは「やっぱり」な答えであった。
「本当は(袖のない)ノースリーブ、タンクトップを着て涼しく過ごしたいのですが、男性からの視線が気になって、着ることができないんです。電車やバス、カフェでくつろいでいる時だって安心できません」(森下さん)
こうした証言が出ると、やはり女性の「自意識過剰だ」という反論が噴出するが、森下さんは実際の被害を幾度も受けている。