映画はサブスクリプションで見る時代。ネットには、Netflix、Hulu、Amazonプライム、U-NEXT等々、定額見放題のサブスクが溢れている。しかし、コンテンツがあまりにも多すぎて、「どれから見たらいいのかわからない」という声が多いのも事実。若者の中には「映画を早送りで見る人たち」も増えているという。そんな中、「映画は早送りじゃなく厳選してみるものだ!」と主張するのがホイチョイ・プロダクションズの馬場康夫氏である。
『私をスキーに連れてって』など数多くの映画で監督を務めた馬場氏が、全50作の国民的映画シリーズ「男はつらいよ」で選ぶべき「この1本!」を紹介する。
* * *
「男はつらいよ」シリーズを1本見るならどれか、だ。全50作を見返し、今の視点で採点した(別掲表も参照)。
まず、おいちゃん役をテレビと同じ森川信が演じた『寅次郎恋歌』までの最初の8本は、コメディ色が強く、話に勢いがあって、理屈抜きに面白い。が、寅さんの衣装や、冒頭の夢の場面などが後の作品とは違うので、1本だけ選ぶとなると、森川信出演の8作ではない気がする。
フォーマットが整うのは八千草薫がマドンナ役を務めた第10作『寅次郎夢枕』からである。寅さんは毎回マドンナに惚れて振られるが、この作品は両想いになる初めてのケースなので、その意味でも見ものだ。また、さくらの息子・満男が成人して前面に出てくるシリーズ末期の作品だと、第43作『寅次郎の休日』が、ギャグに切れがあって面白い。
ぴあの「クチコミ満足度ランキング」で最も評価が高いのは、浅丘ルリ子が2度目のマドンナを務めた第15作『寅次郎相合い傘』である。「男はつらいよ」は、寅さんとマドンナが両想いになると恋愛軸が盛り上がって俄然面白くなるのだが、浅丘ルリ子の出演作は5本あって、どれも両想いなので面白い。監督自身、一番気に入っているのは浅丘ルリ子3度目の出演の『寅次郎 ハイビスカスの花』だと広言しており、現に、渥美清が亡くなった翌年の1997年、この作品を編集し直して、特別篇として世に送っている。ただ、1話完結が基本の寅さんシリーズにあって、浅丘ルリ子演じるドサ回りの歌手リリーは、キャラクターが共通で話もつながっているので、初めて見るなら5本順番に見たい。
実は、山田洋次は女性より男性を立てるのが上手い監督で、「男はつらいよ」で印象に残る脇役は女優よりむしろ男優の方が多い。第1作の志村喬、『寅次郎相合い傘』の船越英二、『葛飾立志篇』の小林桂樹など、印象深い脇役はたくさんいるが、出色は、第38作『知床慕情』の三船敏郎である。この作品で三船が演じた知床半島の酪農村の無骨な獣医役は、数々の演技賞を受賞しており、晩年の三船のベストの演技と言える。