新型コロナウイルスのオミクロン株に対応した「新しいワクチン」の接種が、早ければ9月半ばにも始まるという。当初は10月中旬からとしていた政府が焦って前倒しした理由は、従来型のワクチンが全然効かなくなったことにほかならない。
新しいワクチンは「2価ワクチン」と呼ばれ、従来型のコロナウイルスとオミクロン株の両方に対応するという。名古屋大学名誉教授で医師の小島勢二さんが解説する。
「従来型のワクチンは、およそ3年前、最初に出現したウイルスに対して作られたものです。ウイルスが変異を繰り返したので、当然、効果は薄れました。第6波、第7波を引き起こしたオミクロン株では、特にこの傾向が強く表れました。
そこでワクチンメーカーは、オミクロン株のなかでも第6波の主流であった『BA.1』の遺伝情報をもとに、改良型ワクチンを開発。従来型ワクチンと改良型ワクチンを1:1で混ぜたのが2価ワクチンです」
日本での接種対象は2回目までを終えた12才以上のすべての人。高齢者や医療従事者などから開始される。
海外でも同様のワクチンが使われ始め、イギリスでは8月にモデルナ社の新型ワクチンが承認を受け、カナダでも9月1日に承認された。
期待されるのはもちろん、オミクロン株に対する感染予防効果だ。だが、その効果に疑問を持たざるを得ないデータがある。小島さんの指摘。
「モデルナ社の研究チームがまとめ、今年6月にサイト上に公表された査読前論文が注目されています。
それによると、『従来のワクチンを打った人』の新型コロナ感染率が1.8%だったのに対し、『新しい2価ワクチンを打った人』では3.2%と感染率が上がったのです。つまり、2価ワクチンを接種した方が、新型コロナに感染しやすいという可能性が示されました」
研究の被験者の数(従来型ワクチン275人、2価ワクチン341人)が少ないので、さらなる大規模な調査が待たれるところだが、「新しいワクチンを打つとかえって感染しやすい」ことが示唆されたことには不安を感じざるを得ない。
モデルナ社によると、従来ワクチンに比べ、2価ワクチンを接種すると、オミクロン株に対する中和抗体の値が平均1.75倍になるという。だから、「オミクロン株の感染を防げるはずだ」という理屈である。
しかし、そもそも中和抗体の値が増えるからといって、感染防止に直結するとは限らない。ウイルスの種類によっては、抗体がかえって感染を助長させ、重症化を招くこともあり、新型コロナがこのタイプに変異したことも否定はできない。
中和抗体の値は、過去の感染歴や接種済みワクチンが影響することがある。
「『抗原原罪』とよばれる現象で、過去に感染したウイルスと一部が同じ構造を持つ別のウイルスに感染すると、先に感染したウイルスの中和抗体は迅速に作られるものの、新しいウイルスに対抗する中和抗体は作られにくいという免疫現象です。この現象はワクチンでも同じことが起きると考えられる。つまり2価ワクチンを接種しても、過去に感染したウイルスのタイプや接種済みのワクチンの種類によっては、ワクチンメーカーが発表したような中和抗体の値の上昇という効果が得られない可能性があります」(小島さん)