3年ぶりに行動制限がない夏は、これまで辛抱していた旅行やレジャー、外食にと出かける計画を考えていたが、あまりの猛暑に動きたくなくなった人も多いのではないか。東京都心では猛暑日の日数が歴代最多となった2022年夏、暑さでバテる暇もないほど商売繁盛となった人たちがいる。ライターの森鷹久氏が、秋の訪れで猛暑バブルが去るのを惜しむ人たちについてレポートする。
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「毎年こんなに暑かったっけ?」と誰もが思った2022年の夏。それもそのはず、35度超えの猛暑日は歴代最多で日本史上「最も暑い夏」だったと言えるかもしれない。9月に入り、秋の気配を感じるような気温に落ち着きつつあるが、この猛暑が、コロナ禍以降の最も大きい「稼ぎ時だった」として、夏の終わりを惜しむ声もあるようだ。
「まさに数年ぶりのバブル、朝から晩まで、客が途切れることはなかったね。まだ暑いままでいて欲しいよね、ほんとに」
少し残念そうに、しかし満面の笑みでこう答えてくれたのは、都内のタクシー運転手・柿本譲さん(仮名・50代)。実は柿本さん、元々はイベント運営会社に所属していたのだが、コロナ禍の影響で仕事がなくなり転職をしたクチだという。タクシーの先輩運転手達が「久々のバブル」と小躍りしていたのだと振り返る。
「転職したのはいいけど、ほとんど客がいなくてね。最初の数ヶ月は給与補償がされていたからよかったけど、その後は地獄。まあ、仕事があるだけいいなと思ってやっていたけど」(柿本さん)
テレビや新聞で「コロナ第X波」などと報じられる度に客足が減り、少し増えたかと思えばまた減り……そんな状態が繰り返されてきたが、今年の夏は経験したことがないほどの客足だったと話す。
「朝から暑いしさ、少し歩いたら汗だくになるもんだから、若い女性なんかが1メーター2メーターとか短い距離をよく利用してくれました。中には、制服姿の若い女子高生さんもいて、汗でメイクが崩れるから、なんて言っていたね(笑)。もちろん男性客も、暑くてやってられないとタクシーに乗り込んでくる。外回りの営業さんなんかが、涼みに来るわけよ。都内を走っていれば、30分客が途切れることもなかったくらい」(柿本さん)
あまりの暑さに、手頃な逃げ場として「タクシー」を利用する客がひっきりなしだった、ということだろうが、唯一の悩みは「寒すぎて風邪を引きそうだった」こと。
「30度を超えると、エアコンをフル稼働していないとお客さんの乗る後部座席まで冷えないんです。汗だくで乗ってくるお客さんが多いから、常に冷やしてるでしょ? 運転手は寒くて寒くて……。あまりにエアコンかけっぱなしで車の調子が悪くなったという話も聞いたね」(柿本さん)
猛暑によるつかの間の「バブル」は、飲食業界にも及んでいたようだ。