駅でよく見かける「ヨシッ」と声をかけながらの指さし確認(指差喚呼)は、事故や災害の防止対策として日本の旧国鉄で始められ、他の危険を伴う現場でも行われるようになった。ところが、危険を回避するのが目的の確認を、確認したというポーズをとることが目的になってしまい、かえって危険を呼び寄せてしまうことがある。俳人で著作家の日野百草氏が、3才女児が送迎バスに置き去りにされて命が失われた事件をきっかけに、送迎バスドライバー不足による弊害と、事故防止について考えた
* * *
「なにも難しい話ではないのです。『人が残っていないか』それを確認する、ただそれだけのことなのです」
関東の大手私鉄系バス会社に長く勤め、定年後に幼稚園や障がい者施設の送迎などの業務に従事してきた元運転士は「許せません」と言いながらも、電話口で言葉を荒らげることもなく、淡々と語ってくれた。
「(人数を)数えることに頼ってはいけません。数えるのは当然ですが、それに頼ってはいけない。数もまた、間違えるものですから」
9月5日、静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で3歳の女児が通園バス内に取り残されて死亡した。最高気温30度超えの中、約5時間も車内に置き去りにされた末の死亡事故だった。理事長兼園長が運転手、女性職員が添乗、アプリによる園の管理もなされていたとされる中での痛ましい事件となった。
元運転士には自身の経験も踏まえ、今回の経緯について順を追って説明していただく。もちろん多くの園の送迎に従事するドライバーは事故なく安全に運行していることだろう。しかし人間は完璧ではない。「数は間違えるもの」が前提ということか。
「はい。難しいことは言えませんが、どんなベテランであろうと数は間違えます。そもそも人間は間違えるものです。6人乗った、6人降りた、だから大丈夫、というのがおかしいのです。なぜなら自分が数を間違っているかもしれないからです」
彼の発言は一部、文章に起こす上で改変することを了承いただいているが、それにしても6人である。素人考えだが6人、間違えるものなのだろうか。
「間違えます。乗客が3人だって間違えるときは間違えます。むしろ大勢いるほうが慎重に数えますが、目で見てすぐ何人、と数えられるほうが危ないと思います」