「終わりよければすべてよし」ではないが、死に場所は自分で選び、理想の最期を迎えたい。そう思って「老人ホーム」への入居を決めたが、予期せぬ落とし穴にハマってしまう可能性がある。食事や医療体制、設備、スタッフの接し方など、施設によって雲泥の差が出るサービスについて、専門家と経験者たちが内部事情を明かす。【前後編の前編】
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某地方都市在住の長田智美さん(仮名・62才)が悲痛な表情で話す。
「母が亡くなり、地方で独居になる父が不安だったので実家を売却、本人とあちこち見学した末に有料老人ホームに入居が決まりました。3か月ほど経ち、慣れてきた頃かなと思って電話してみたら、言いにくそうに“ここを出たい”と打ち明けられたんです」
理由を尋ねると、父はぽつりぽつりと不満を訴え始めた。
「父はまだ元気なのに、スタッフから認知症の人と同じような赤ちゃん言葉を使われたり、ぞんざいな態度を取られたそう。食事は冷凍食品が多く、中が冷たいことも頻繁にあるとか。施設への不満が次から次へと飛び出し、止まりませんでした」
一方、都内近郊のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入居中の原田寿美さん(仮名・77才)はこう話す。
「タブレットのネット接続に戸惑ったとき、フロントに相談したらすぐ担当の人が来て、つなげてくれました。何よりうれしいのは、食事が日替わりで飽きのこない品数豊富なバイキングということ。しかも、“リンゴはすりおろしてほしい”などの希望にも応えてくれます。ここを終の棲家に決めて、本当によかった」
それぞれ「終の棲家」として真剣に熟慮、選択した「老人ホーム」だったはず。それにもかかわらず、長田さんの父親と原田さんのように大きな差がつくことがある。その理由はいったいなんなのか──。
そもそも、ひとくちに「老人ホーム」といっても公的・民間施設にまたがり、さまざまな種類がある。公的施設の主なものだけでも、要介護3以上が要件の「特別養護老人ホーム」、要介護1以上の「介護老人保健施設」、自立?軽度の要介護の「ケアハウス(軽費老人ホーム)」がある。
民間施設にも要支援2以上の「グループホーム」、要支援1以上の「介護付有料老人ホーム」、自立?軽度の要介護の「住宅型有料老人ホーム」「サ高住」などがある。今回はこれらのジャンルをまたぐように集めた「底辺」と「最高級」の体験談から、失敗しない条件を探っていく。
人手が足りず食事が最後までできない
まず気になるのは、病院との提携だ。高齢になれば複数の持病を持つ人も多く、健康上の不安があちこち出てくる。介護評論家の佐藤恒伯さんが解説する。
「週1回くらいのペースでやってくる医師に診てもらえるところが多い。さらにそこで出された処方箋により、訪問薬局が薬を届ける。そうしたルールになっているのはどこもほとんど同じです。ただ“最高級”の施設に入居している人が大病院をかかりつけ医にしている場合、送迎対応をしてもらえることもある。“底辺”の施設の場合は最低限の人員しかいないのでどうしてもそれは難しい」