人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、性感染症のケジラミについてお届けする。
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ある友人の保育園の園長先生が、「うちの園ではケジラミが蔓延して困っています」と保護者の前で力説していましたので、「ケジラミは主に陰毛につくシラミで、保育園で流行っているのはアタマジラミで、別の種類のシラミですからね」と、そっと耳打ちしたことがあります。
頭部に寄生するシラミはアタマジラミで、子どもに多くみられます。そして衣類につくのがコロモジラミで、陰毛につくのがケジラミです。
日本性感染症学会の診断・治療ガイドラインで定めている性感染症の中に「ケジラミ症」があります。吸血昆虫であるケジラミは性器周辺に棲み付いて、血液を栄養として1日数回の吸血をしながら、1ミリ前後の丸っこい成虫になります。成虫は薄茶色をおびた白色で、ハサミをもった蟹のような姿をしています。拡大鏡で見ながら先の細いピンセットでつまむと脚を動かすのがわかり、顕微鏡で見るとゾっとします。
ほとんどは陰毛の直接接触による感染ですが、宿主(ヒト)から離れても1、2日は生きて、1日10センチくらいは移動できるために毛布などの寝具やタオル等を介した感染もあり、家族内でうつることもあります。
成虫は毛の根元近くに卵を産み、それが1週間程度で孵化、幼虫は約1か月ほどで成虫になって産卵します。ほとんどの場合は感染後1か月ほどして陰毛が痒いという症状で気づきます。腋毛や胸毛、すね毛、果てはまつ毛や眉毛にも感染しますので要注意です。幼児や女性は頭髪にもケジラミが感染します(男性の頭髪への感染は稀とされます)。
症状の痒みには個人差がありますが、掻いた傷から細菌の二次感染を起こしたり、湿疹やかぶれとなったりすることもあります。
ケジラミが疑われると、まずは陰毛部の根元を探します。吸血していないと肌色で見つけにくいので、その場合は白い卵を探します。治療はスミスリンパウダーとスミスリンL(シャンプー)を使います。これらの薬剤は成虫には効果がありますが、卵には効果が弱いので治療を繰り返す必要があり、医師の診察が必要になります。