今年6月、政府が閣議決定した経済財政運営と改革の基本指針「骨太の方針」に、「国民皆歯科健診の具体的な検討」という一文が盛り込まれた。
それによると政府は今後、全国民が年1回、歯科健診を受けやすくすることを目指すという。
背景のひとつに、歯の疾患の予防が健康長寿に貢献する可能性があるとわかってきたことが挙げられる。
厚生労働省の健康情報サイト「e-ヘルスネット」は歯周病について、糖尿病や心疾患、慢性腎臓病や呼吸器疾患、がんなど様々な全身疾患との関連を報告している。また、最近は認知症や新型コロナとの関連も指摘されている。
人生100年時代、歯を健康に保つことは、健康寿命を延ばすことにつながるのだ。
「歯周病の初期段階は、自覚症状がほとんどありません。気づいていないだけで、誰でも歯周病に罹患している可能性があります」
そう指摘するのは、日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座教授で歯科医師の沼部幸博氏。
厚労省の「歯科疾患実態調査」(2016年)によると、35~59歳の約7割が歯周病に罹患しているという。
「歯周病は歯そのものではなく、歯を支える歯茎(歯肉)や骨(歯槽骨)などが壊され、最終的に歯が抜け落ちる病気です。初期段階を『歯肉炎』、進行すると軽度から重度までの『歯周炎』と呼びます」(沼部氏)
歯周病の原因となるのは「プラーク」だ。
「汚れている歯の表面を一層被う白くて軟らかい付着物がプラークで、それは食べ物のカスではなく、歯周病菌をはじめとする様々な微生物の塊です。1mgのプラークに1億を超える微生物が棲みつき、歯と歯茎の間にプラークが溜まることで、繁殖した歯周病菌が歯茎に炎症を起こすのです」