安倍晋三・元首相の国葬について多くの国民から反発の声があがっている。この問題について作家の下重暁子氏(86)に意見を聞いた。
* * *
最初に申し上げますと、賛成か反対かの前に、なぜ国葬にするのかがわかりません。エリザベス女王なら誰もが納得しますが。
これまでも功績のあった総理は数多くいたし、戦後間もない時期に吉田茂さんが国葬になったのは時代背景としてまだ理解できます。でも安倍さんは自民党葬ならまだしも、なぜ国葬なのか。しかもこの話はある日、突然出てきてあっという間に決まりましたよね。
岸田総理は在任期間の長さを国葬の理由にしましたが、「長ければいい」というものではない。
なぜ国葬なのか、私がよくわからないと感じる理由は3つあります。
1つ目は国が行なう葬儀である以上、国葬は国家国民のものです。国民が「ぜひやってほしい」と賛成したのなら良いですが、私たちはそんなことを言った覚えはありません。世論調査でも大半の国民が国葬に疑問を持っているのに、なぜ岸田さんは固執するのか。
2つ目は安倍総理の在任中の実績の問題です。何を成し遂げたのかを考えると、森友学園や加計学園などの疑惑が真っ先に頭に浮かびます。
安倍総理の功績は外交だと言われますが、G7サミットで最も存在感を発揮した総理は中曽根康弘さんです。レーガン大統領と仲良くなるなど、各国の要人と同等に付き合える雰囲気を醸し出した。日中国交回復を果たした田中角栄さんも見事。戦争の敵国だった日本と中国の友好関係の絆を作ったのは凄いことです。
偉大な先人と比べて、安倍さんは何をしたのか。せいぜいトランプさんと仲良くなったくらいでしょう。任期が長いほどあぶり出されることも多いのです。
3つ目は、ご家族の心情です。安倍さんの亡くなり方はあってはならないことで、一番つらいのはご家族。国葬で世論が分断されている現状にも苦しんでおられるのではないか。国民の抵抗がなく、静かに黙祷できるかたちで弔うことを、ご家族も望んでいるのではないでしょうか。
私は国葬には疑問ですが、国民が納得できるのであればやぶさかではない。でもこれだけ異論が噴出し、納得できないまま国葬が強行されれば、岸田総理の政治生命も危ぶまれると思います。
※週刊ポスト2022年9月30日号