日本の成人の約7割が、歯周病を患っているとされる。放置すると心臓病や認知症など重大な疾患につながることが、近年わかってきた。ただ、歯周病は自覚症状がないまま進行していくことが多い厄介な病気だ。
まずは歯周病のリスクを高める因子を理解しておきたい。日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座教授で歯科医師の沼部幸博氏は「遺伝的要因もありますが、それよりも後天的要因のほうが大きいとされています。歯周病は生活習慣病のひとつなのです」と語る。
生活習慣の悪化は、感染に対する免疫力を低下させる。
「煙草に含まれるニコチンは歯茎の細胞を傷つけ、免疫力を低下させるため、喫煙によって歯周病菌に感染しやすくなります。
また、日常生活でストレスを抱える人は、副腎皮質から分泌されるホルモンの分泌量が増えて感染への免疫力を低下させます」(沼部氏)
今年3月には岡山大学の研究チームが、肥満が歯周病を悪化させるとの研究結果を発表した。
「肥満体型の人は脂肪細胞からアディポカイトサインという炎症物質が分泌され、それが歯茎の炎症を悪化させる可能性があります。また、高血糖の状態が続くと免疫を担当する細胞の機能不全が起こって免疫力が低下し、歯周病菌に感染しやすくなります。歯周病によって糖尿病を発症しやすくするだけでなく、糖尿病が歯周病をもたらす可能性もあるのです」(同前)
予防と早期発見が重要だが、「口に痛みを感じてから歯科に行く」のでは歯周病が進行してしまう。
80歳時点で20本の歯を保つ「8020運動」を進める8020推進財団による歯周病のセルフチェックのための9つのポイントを掲載した。
セルフチェックで気になるところがあれば、早めに歯科医院を受診したい。沼部氏が言う。
「チェック項目が1~2個あれば歯周病の可能性があります。ただし、項目によってはひとつ当てはまるだけで歯周病が進行している可能性が高いので注意したい。『歯茎がやせてきた』『歯と歯の間にものが詰まりやすい』『指で触ってみて、少しグラつく歯がある』のどれかひとつが該当するなら、進行した歯周炎の可能性があります。
日本人は歯周病で歯科医院を受診する人が少ないが、たとえ高齢者で歯周病が進行していても、治療すれば歯を残せる可能性が高まります。『口は災いのもと』でもありますが、口腔内を清潔に保てば、健康長寿につながるのです」
セルフチェックをしながら、定期的に歯科医院にかかるのが望ましい。
※週刊ポスト2022年9月30日号