日本人の成人の約7割が、歯周病を患っているとされる。大切なのは、歯科業界の一部に蔓延している“間違った歯科治療・口腔ケア”を避け、正しい治療やケアを知ることだ。『やってはいけない歯科治療』著者でジャーナリストの岩澤倫彦氏がインプラント治療の「よくある間違い」についてレポートする。
* * *
【間違い】手術をすればインプラント治療は完了?
抜歯後に、チタン製の人工歯根を顎の骨に埋入し、支台をつけて人工歯を装着するインプラント。手術が治療のゴールと思っているとしたら、考え直したほうがいい。深刻な悲劇を招くからだ。
歯周病で歯を失い、インプラント手術を受ける場合、まず歯周病治療を受ける必要がある。そしてインプラント手術後は、毎日の口腔ケアを根本的に改善して、定期的に専門家のケアを受けなければならない。
これを怠ると、「インプラント周囲炎」になり、歯周病と同様に、感染で炎症が起きて歯槽骨が溶ける(歯科用語で吸収)リスクが高まる。インプラント周囲炎は進行スピードが速く、有効な治療法もない。つまり治療は手術後も続いていくのだ。
こうした重要な点を患者に教えないばかりか、杜撰な治療を行うケースも存在するという。
「歯周病が悪化して抜歯された際、同時にインプラント手術を受けたのですが、2週間ほど疼痛に悩まされました。歯科医に訴えたところ、『絶対に感染ではない』と言って取り合ってくれませんでした」
この患者は結果的にはインプラントを抜き、数か月かけて組織を治癒させてから、再びインプラント手術を受けたという。“歯周病で抜歯後、すぐにインプラント手術ができる”と謳う歯科医が増えているが、注意したい。
【間違い】サービスでインプラントを入れてくれる親切な歯科医がいる?
ある領域の歯科講習会に参加した一歯科医の証言を紹介したい。
「講師の歯科医が自慢気にこんな話をしたのです。
『自分のクリニックでは、インプラントの患者に困ることがない。抜歯の患者に麻酔をかけた時、抜歯と同時にインプラント手術をするからだ。後で患者に“インプラントを埋めておきました”と言うと、大体は親切な歯科医だと評価してくれる』
唖然としました。もちろん事前に患者の同意を取っていません。中には怒る患者さんもいるのでは、と聞くと──。
『その場合はインプラントをすぐ抜けばいい。抜いたインプラントは、“手術に使用したが、結合しなかった”と報告書つきで販売会社に送れば、タダで新品に換えてくれる』
だから自腹を切らずに、患者を増やせるというのです。同じ歯科医として恥ずかしいですよ」