上場企業が舞台となった詐欺事件は混迷の度を深めている。ジャーナリスト・伊藤博敏氏がレポートする。
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名証ネクストに上場するオウケイウェイヴの“騒動”が治まらない。
今年8月末の臨時株主総会で解任された前経営陣が、9月21日、総会決議の取り消しを求めて東京地裁に提訴。同時に、現経営陣の職務執行を停止する仮処分を申し立てた。
混乱のきっかけは投資の失敗だった。
インド人金融業者のスニール・ジー・サドワニ氏の“甘言”に乗って「IPO(新規公開株)の特別枠」に約50億円を投資したところ、入金された資金を他の投資家の利払いに回す「ポンジスキーム」という詐欺だったことが発覚した。
筆者は、オウケイウェイヴの依頼を受けた調査委員会が、6月10日、調査報告書を提出したのを機に、本サイトで「50億円詐欺事件の全貌」と題する記事を執筆した。
会社側は、報告書に合わせて警視庁に告訴状を提出して受理されており、捜査は始まっている。また、2度にわたる調査委員会の報告書で、役員らがスニール氏と組んだ形跡はなく、善管注意義務違反を問われそうな役員はいるものの、会社は被害者と位置付けられた。
ただ経営陣の責任を追及する株主もいて、杉浦元氏らが臨時株主総会の招集を請求した。これを受けて会社側は、8月25日に株主総会を開いた。その結果、代表取締役の福田道夫氏と取締役の野崎正徳氏は解任され、新たな代表取締役には杉浦氏が就き、他に4名の取締役が選任された。
仕掛けた相手はかつての“仲間”だった
オウケイウェイヴは日本最大級のQ&Aサイトを運営する会社。フィンテック事業に進出して株価も高騰したが、前社長のインサイダー疑惑などの不祥事もあり、軌道を修正してメインのソリューション事業を約71億円で売却、2021年6月期決算で約60億円の特別利益を計上した。
この手元資金を遊ばせておくわけにはいかないと、福田氏が経営管理本部長の野崎氏に指示して、スニール氏の会社であるRaging Bullへの投資を検討させた。まず3億4000万円の投資が2021年4月6日の取締役会で承認され、1億5000万円の利益がもたらされた。以降、発覚までの約1年間に34億2900万円を運用委託、受領した利益分の15億300万円と合わせ、49億3300万円が取立不能となった。
投資失敗の責任を取らされての福田、野崎両氏の解任だが、そう仕掛けた杉浦氏はかつての“仲間”だった。
福田前社長は、慶応大学を卒業後、大手通信会社を経てベンチャーの世界に飛び込み、2000年4月、創業したばかりのオウケイウェイヴに入社した。一方、杉浦氏は早稲田大学を卒業後、大手証券系投資会社でベンチャー投資業務を行い、その過程の2000年2月、オウケイウェイヴ取締役に就任、8年間、役員を務めている。
ネット社会にQ&Aサイトを定着させようと手を組んだ2人が、20年余を経て争うことになったわけだが、福田氏が復帰を画策するのはなぜか。そもそもの原因である50億円詐欺事件の行方はどうなるのか。
会社を提訴したばかりの福田氏を直撃、その真意を聞いた。
――50億円詐欺事件の結果責任を問う声があるなか、復帰を画策するのはなぜか。
福田:もともと会社に居座ろうという気はありませんでした。経営を安定させ、見通しが立ったら野崎とともに辞めるつもりでした。ただ、プロキシーファイト(委任状争奪戦)の過程で、我々が事件に関与しているような情報を流され、それが敗因にもなった。それは認められないという気持ちです。
――具体的にはどんな攻撃か。
福田:杉浦氏は、8月4日に〈オンライン説明会開催についてのお知らせ〉というページをネットに公開、株主に対する情報提供を行いました。その際、例えば「オウケイウェイヴの取締役らがRaging Bull社を通じて会社資金を実質的に横領したとも捉えられかねない事態」などと記載、野崎とRaging Bullに矢印を引き、「資金流入疑惑」と記載していました。ほかにも「現経営陣において、不正の可能性を疑われてもやむを得ない」と記すなど、悪質な印象操作を行っています。