儀仗隊の先導により、遺骨を抱いた喪主の昭恵さんが入場した。約2か月前に夫との別れを告げたときに見せた姿よりも幾分かほっそりとし、遺骨を支えるその腕は、あまりにか細く思えた。愛する夫を失った深い悲しみからか、それとも嫌でも耳に届く批判的な声の多さの心労ゆえか──昭恵さんは身の置き所のなさを感じているという。
誤算続きのお別れに、会場からは深いため息が漏れた。9月27日に行われた安倍晋三元首相の国葬。最初の読み違いは参加者の数だった。国内では約6000人に案内を発送したが、そのうち出席したのは約3600人のみで、4割にあたる2400人が招待を辞退。元職を含む国会議員にいたっては6割が欠席の意向を示した。さらに、海外からの弔問客も尻すぼみとなった。
「当初は各国の首脳が来日して華やかな弔問外交が繰り広げられると喧伝されましたが、フタを開けてみればG7首脳の出席はゼロ。噂された米国のトランプ前大統領やオバマ元大統領といった“大物”も来なかった。在任中の安倍さんは外交を最大の成果としていただけに、海外の要人の反応は寂しいものでした」(政治部記者)
国民から大きく反感を買ったのが費用面だ。当初、政府は2億4900万円の予算を計上したが、「要人の送迎費や警備費が含まれていない」などと追及されると、「概算として16億6000万円の費用がかかる」と明らかにした。
奇しくも8日違いで行われたイギリスのエリザベス女王の国葬にかかった費用は、英メディアによると推計800万ポンド(約13億円)。荘厳で気高くもあった女王の国葬よりも高額となった安倍氏の国葬費用に違和感を抱いた国民は少なくなかった。
「女王の国葬ではかなりの数のボランティアが献身的に働きましたし、大掛かりに見える儀礼の備品は使い回しているものも多かった。沿道を埋め尽くした花は、国民から献花されたものを王室の庭師が手作業で並べたもので、どこを取っても国民の女王への愛にあふれたあたたかく手作り感のある内容でした。英国民は13億円という費用に不満はなく、自分たちの手で送り出したいという気持ちが強く感じられました」(在英ジャーナリスト)
かたや日本政府は、警備に要する経費として8億円、海外要人の接遇に要する経費として6億円、待機場所の借り上げなど式典関係の経費として2.49億円を計上した。だが実際の式典に国民の葬儀としての一体感はなく、物々しい警備だけが印象に残った。
「あれだけやれば、16億円超では到底収まりません」
こう指摘するのは元公安警察で作家の濱嘉之さんだ。
「政府は警備にかかる経費を8億円としますが、あくまでも発表されたのは道府県警察の費用で、そこに警視庁の警察官4万5000人の費用は含まれていません。国葬は国の行事なので警視庁の警備費は国が負担する必要があります。しかも今回、警察は威信をかけた人海戦術による警備を行ったため、さまざまな費用を合わせて試算すると警備費だけで最低でも40億円かかります。
一方で国には使途を公開しなくても使える官房機密費と外交機密費があり、当初の概算16億6000万円を超える費用は機密費でこっそり補填されるかもしれません」
この先、当初の概算を上回る国葬の費用が明らかになれば、国民の怒りはさらに増すだろう。
※女性セブン2022年10月13日号