ロシアによるウクライナ侵攻のニュースが連日、紙面を賑わせているが、欧米発のストーリーに日本人が相乗りすることに危険がある。新書『危機の読書』を上梓した作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が、慶應大学法学部教授の片山杜秀氏とともにウクライナ問題の本質を語りあう。【全4回の第2回。第1回から読む】
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片山:ウクライナ危機では、すべてのメディアが、ウクライナは西側諸国と価値観が一緒だから、日本も足並みを揃えよう、支援しようと主張した。しかし価値観が一緒というのは無理筋でしょう?
佐藤:おっしゃる通りです。ウクライナの歴史観ひとつ取ってもそう。いま広まっているウクライナの歴史は、実証的な歴史学には耐えられない、ガリツィア地方の民族主義者の主張をもとにしたウクライナ版の皇国史観とも呼べる代物です。
片山:ソ連崩壊後の30年間、ウクライナは政党政治もままならず、大統領の独裁体制のような形で国を動かしてきた。そして2014年に親ロシア派の大統領を追放したマイダン革命が起きた。以降、ロシア帝国時代から存在したウクライナ神話(皇国史観)を利用して、民族主義、ナショナリズムを煽ってきた背景があります。でも解説者は、そこには触れませんね。
佐藤:たぶん知らないのだと思います。ウクライナについての研究書や専門書もほとんどありませんから。専門家やコメンテーターは、ウクライナ版皇国史観をもとに話をするから、妙な方向に向かってしまう。ウクライナが抱える問題を理解するには『国民の僕』を見た方がずっといい。
片山:ゼレンスキー大統領がコメディアン時代に主演したドラマですね。見なければ、と思っていたのですが……。
佐藤:劇中で、2049年のウクライナは、ヨーロッパの最先進国に変貌しています。大学で、30年前の自国を振り返る授業をするシーンからドラマがスタートします。なかでも重要なのはシーズン3。ウクライナが28か国に分裂してしまう。そこに、大統領に扮したゼレンスキーが登場して、ウクライナが救われる。
片山:現実を予見したようなストーリーですね。
佐藤:『国民の僕』では最後の最後までドンバス地方とガリツィア地方だけは一緒にならずに対立を続ける。いまのウクライナも、国が分解してしまうという、この恐怖感に支配されている。