ここ数年、クオリティーの高いホラー作品が次々と公開され、人気を呼んでいる。どうして人は怖い映画を見たくなるのか。どんな作品が注目を集めているのか。最後まで読んだあなたはもう、今夜眠れなくなる──。
長びくコロナの影響や、今年2月からのロシアによるウクライナ侵攻などにより、これまでにないストレスを感じる人が多い。実はそうしたストレスがホラー映画のブームと関係しているという。椙山女学園大学教授の山根一郎さんはこう分析する。
「恐怖は、面白い、悲しいといった感情に比べて、心を支配しやすいんです。ホラー映画を見ているときは、交感神経が優位に立ち、脳内でアドレナリンなどの興奮ホルモンが分泌され、悩み事なども一時忘れて集中しやすくなる。
そして、それ以外の余計なことを考えずに済むため、見終わった後、嫌なことを忘れてスッキリする。瞑想に近い効果がホラー作品にはあるのです」(山根さん)
秋以降も数々のホラー作品が公開される予定だが、「ここ数年、アジアンホラーは評価が高く、その中でも今年は台湾ホラーが話題」と、ツイッターでホラー映画情報を発信しているホラー映画取締役さんは言う。
「7月に公開された台湾映画の『哭悲/THE SADNESS』は、ウイルスによって凶暴化する人間たちが殺人と拷問を横行させるパニックホラー。殺戮と性暴力が繰り広げられ、あまりにもグロテスクで過激な描写があり、R18+指定になりましたが、連日満席が出るほどのスマッシュヒットを記録しました。
同時期にNetflix(以下、ネットフリックス)で配信された台湾映画『呪詛』は、6年前にあるカルト教団の施設で禁忌を破ってしまった女性が、その呪いの恐怖に襲われ続ける内容。ショッキングな実話をベースにしており、その怖さは一級品です。台湾では社会現象となり、日本では配信1週目に『今日の映画TOP10』で1位を獲得しています」(ホラー映画取締役さん)
同作はツイッターで「怖すぎて眠れない」などの投稿が相次ぎ、トレンド入りするほどの人気を得た。
台湾ホラーが躍進する背景には、あるゲームの存在が大きかったと説明するのはホラープロデューサーの夜住アンナさん。
「2017年にパソコンゲームとして配信された『返校』です。これは1960年代、中国国民党が政治的弾圧を行っていた時代の学校が舞台。反体制派は投獄、処刑された、まさに台湾にとっては、負の歴史が題材になっています。だからこそ、台湾の人たちにとってはリアルで身近な恐怖。それがホラーの題材として扱われ、台湾以外でも、北米、欧州、日本で配信され、世界的に大ヒットとなりました。
『返校』は、のちに映画化、ネットフリックスでもドラマ化され、クオリティーの高さから台湾ホラーブームに注目が集まり、『呪詛』をはじめとするホラーブームにつながりました」(夜住さん)
台湾以外にも、お隣の韓国では2017年に『哭声/コクソン』が韓国国内観客動員数700万人に迫る勢いで大ヒットし、日本国内でも上映されるや、大きな話題を呼んだ。
これらアジアンホラーを語る上で欠かせないのが、ジャパニーズホラー(以下、Jホラー)の存在だ。