【著者インタビュー】高野秀行さん/『語学の天才まで1億光年』/集英社インターナショナル/1870円
【本の内容】
《私ほど語学において連戦連敗をくり返し、苦しんでいる人間はそうそういないはずだ。/でも、というか、だからこそ、私は語学に対して並み外れた深い想いを抱いている。言いたいことも山ほどある!!》(「はじめに」より)。ノンフィクション作家として数々の辺境に飛び込み取材をしては作品に著してきた著者が、取材の前に必ず行ってきたのがその地域の言語を学ぶこと。悪戦苦闘ぶりと探究心、想像を超える楽しさを綴った「誰も書かなかった」エッセイ集。
「ずっと先延ばし」にしていたのがコロナ禍で一変
英語、フランス語、リンガラ語、ボミタバ語他コンゴの民族語、タイ語、ビルマ語、中国語、ワ語……。アジア、アフリカ、南米の辺境地帯を探検してきたノンフィクション作家の高野秀行さんが、これまでに学んだ外国語は、じつに25以上にも及ぶ。
言語を学んだ経験について書いてほしい、という依頼はずいぶん前からあったが、なかなか時間が取れなかったそうだ。
「書くなら、振り返る時間がいるなと思っていました。自分にとって言語は、すごく大事なものなんです。どこかへ行って、何かを知って、帰ってきてそのことについて書くというサイクルができていて、まとまった時間が取れず、ずっと先延ばしにしてきたんですけど、コロナ禍で、海外に行けなくなって。取材も中断してしまって、続きも書けない。することなくなっちゃったなあ、と思っていたときに、『前に言ってた語学の話を書きませんか』と言われたんですね」
海外取材で現地コーディネーターや通訳を頼む人も多いなかで、高野さんは、あらかじめ言葉を学習してから行くことにしている。ネイティブスピーカーについて学び、現地の言葉で取材するやり方をずっと続けてきた。
辞書も教科書もないときは、テキストを自作した。複数の言語を学ぶなかで、自分なりの分析や、他の言語との類似を発見することも多かった。語学は、「探検の道具」であると同時に、「探検の対象」にもなっていった。
「ぼくは言語おたく、はやりの言葉で言うと『言語推し』ですね。ほとんど誰とも気持ちを分かち合えない『推し』でして、いきなり比較言語学の話をされてもだいたいの人は困るじゃないですか。うっかり家で妻に話して、しーんとなって、『あ、しまった』と思うこともよくありますから。
今回も、こんな本を書いて読者に受け入れられるのかという不安が強くて(笑い)。担当編集者はもともと言語に興味のある人だったので、とくに興味のない宣伝担当者やそれ以外の部署の人にも原稿を読んでもらって、わかりにくいところを指摘してもらいました」