MLBの2022年シーズンは全日程が終了。エンゼルスの大谷翔平(28)はベーブ・ルース以来104年ぶりの「二桁勝利&二桁本塁打」を達成するなど今季も大活躍だったが、来季はMLBの「ルール変更」に伴いさらなる大爆発が期待されるという。
特に強烈な追い風となりそうなのは、打者・大谷にとってのルール改定だ。これまで左打者の大谷は右方向に引っ張る打球が多く、今季までは一二塁間を3人で守る「大谷シフト」を敷かれることが多かった。ところが、来季からはこうした極端な守備シフトが制限され、内野手は二塁ベースを挟んで2人ずつ守備位置につかなければならなくなる。プロ野球のデータに詳しいジャーナリストの広尾晃氏が解説する。
「昨季は右方向に引っ張る安打が62本(44.9%)だったが、今年は45本(29.8%)まで減った。“大谷シフト”で右方向の打球をアウトにされることが増え、今年は中堅方向の打球が激増していますが(別掲の円グラフ参照)、シフトの影響で失った安打数はメジャー最多の24本と算出されています。
しかし、来季から極端なシフトがなくなれば、本来の引っ張るバッティングが復活する。内野手が一二塁間の深い守備位置につくことができなくなるので“逸失安打”も減り、右方向への安打が仮に10%、約15本増えれば、打率が3割を超える可能性も十分にある」
極端な守備シフトは2010年頃からレイズ監督のジョー・マドン氏(当時)が始めたとされ、イチローが2010年シーズンを最後に3割、200安打に届かなくなったのもシフトの影響が大きかったとされる。今季終盤に連続試合安打記録を自己最長の18に伸ばした好調ぶりを維持すれば、日本人でイチロー以来の年間200安打にも手が届きそうだ。
本塁打数も、昨年の大谷は右方向(引っ張り)に22本(47.8%)放っていたのに対し、今年は7本(20.6%)に減少している。シフトを気にせず右方向への強い打球が増えれば、50本の大台も視野に入ってくる。
来季の主なルール改定は以下の3つだ。
【1】「守備シフト」の制限
内野手の守備位置は、二塁ベースの右・左にそれぞれ2人が守ることなどを義務づける。これにより、一二塁間を3人が守る「大谷シフト」は制限され、打率3割が射程圏内となる。
【2】ベースの拡大
ホームベース以外は1辺3インチ(約7.6cm)長くなり、塁間が約11cm短くなるため、走者は盗塁がしやすくなる。今季の大谷の盗塁成功率は55%(20回試みて11回成功)だが、「70%程度まで増加するのではないか」(広尾氏)
【3】「ピッチ・クロック」の改善
投手は走者なしの場面で15秒以内、走者ありの場面で20秒以内に投球することなどを義務づける。これは投手・大谷にとっては不利に?
今季の開幕前、大谷はこう語っていた。
〈シフトを敷かれた中で打率だけを求めるなら、セーフティバントをすればいいし、守っていないところを狙って打てばいい。でも、それじゃ、おもしろくないでしょう〉(『Number』4月14日号)
その言葉通り、来季は本来の豪快なスイングで快音を響かせてくれることだろう。
取材・文/鵜飼克郎
※週刊ポスト2022年10月21日号