テレビ東京の“仕掛け”が注目を集めている。人気番組の『家、ついて行ってイイですか?』の放送時間を水曜から日曜のゴールデンタイムに移動させたのだ。日曜夜は人気番組がひしめく最激戦区。テレ東の狙いについて、コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
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16日夜、『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)の日曜ゴールデンタイム放送がスタートします。
同番組は2014年1月に月曜の深夜番組としてスタートし、その後は土曜深夜、土曜ゴールデン、水曜ゴールデンと放送枠が変わり、今秋から日曜ゴールデンに移動。また、放送時間も、47分、55分、60分、108分、54分、60分、114分、54分と目まぐるしく変わってきました。これは「他番組の影響を受け、浮き沈みがありながらも、根強いファン層に支えられて放送を続けてきた約8年9か月もの歴史がある」ことの証でしょう。
同番組が今秋に移動する日曜20時台は、テレビ業界最大の激戦区。日本テレビ系が『世界の果てまでイッテQ!』、テレビ朝日が『ポツンと一軒家』、NHKが大河ドラマで高視聴率を獲得するほか、TBS系の『坂上&指原のつぶれない店』がジワジワと支持を集め、フジテレビ系も音楽を前面に押し出した『千鳥の鬼レンチャン』で対抗するなど、ますます争いは熾烈さを増しています。
そんな最激戦区の日曜ゴールデンタイムに、なぜ『家、ついて行ってイイですか?』は移動するのか。さらに、他局のテレビマンたちから「脅威の存在」「ついに定着するかもしれない」などと警戒する声を聞きましたが、その理由は何なのでしょうか。
類似点の多い『家ついて』と『ポツン』
日曜ゴールデンタイムに移動するからには、それなりに勝算があることは間違いないでしょう。『家、ついて行ってイイですか?』は、『YOUは何しに日本へ?』などと並んで2010年代の躍進を支えたほか、テレビ東京としては「日本民間放送連盟賞・テレビエンターテイメント番組部門最優秀賞」を初めて受賞した看板番組だけに、勝算のない戦いをすることは考えられません。
その勝算に当たるものであり、主にテレビ朝日とNHKから恐れられているのが、同番組の潜在的な視聴者層。「『家、ついて行ってイイですか?』を最も好む視聴者層は、『ポツンと一軒家』や大河ドラマと重なるかもしれない」と見られているのです。
同番組の狙いは、家についていくことではなく、家でインタビューしながらその人の人生を掘り下げていくこと。「涙と笑いの人生ドラマ3時間SP」という16日放送のキャッチコピーからも、人生賛歌がテーマの番組であることがわかります。
また、同番組は中高年層の出演者も多く、人生ドラマの内容が『ポツンと一軒家』の出演者と似ていることも少なくありません。その中高年層は、テーマ曲のビートルズ「レット・イット・ビー」が心に染みる世代でもあり、『ポツンと一軒家』に以前ほどの勢いが見られないだけに、「視聴者を奪われるかもしれない」と警戒するのは当然でしょう。
そもそも『家、ついて行ってイイですか?』と『ポツンと一軒家』は、「一般人の人生をのぞき見する台本のないドキュメンタリー」「ディレクターが足で稼ぐ撮影スタイル」という点がほぼ同じ。さらに、「日曜夜に悩みを抱えながらも生きている人々の人生にふれてもらうことで、月曜からの活力にしてもらおう」という狙いも似ています。
コンセプトの点で似たところの多い両番組ですが、先に放送をはじめたのは2014年1月の『家、ついて行ってイイですか?』で、その後2017年10月に『ポツンと一軒家』がスタート。歴史としては『家、ついて行ってイイですか?』に4年弱の長さがある上に、『ポツンと一軒家』は「家について行く」を「家を尋ねる」にアレンジしたような感もあり、本家と分家の直接対決のようにも見えます。
コロナ禍に負けない企画力とタフさ
他局のテレビマンたちが警戒している2つ目の理由は、スタッフの企画力とタフさ。
当初、『家、ついて行ってイイですか?』は、「終電を逃した人に駅周辺で声をかける」という構成でしたが、放送を続けながら、飲食店、銭湯、移動販売車、スーパー、フリーマーケット、祭り、花見、海水浴などにロケの現場を広げていきました。
さらに、コロナ禍という絶体絶命の危機に見舞われたときも、他番組が苦しむ中、独自の対策を連発。無人カメラを設置したり、撮影マニュアルを公開して視聴者自身に撮影してもらったり、過去に取材した人をリモートでインタビューしたりなどの工夫で乗り切ってきました。
18日の放送でも「お悩み、吐き出してもらってもイイですか?」という新企画が予定されていますし、現在TVerで『カレ&&カノジョの家、ついて行ってイイですか?』を配信していることも含め、スタッフの企画力が一目置かれているのです。
在宅率の高い日曜夜に移動することで視聴者層が広がり、今後は平日夜では採用されづらかった新企画の投入が期待できるでしょう。もともと、猛暑の中でも、雨や雪が降っても、深夜に断られ続けても、毎日声をかけ続ける取材班のタフさは知られていただけに、「いくつか新企画がコケても、多少視聴率が悪くても、彼らはめげない」という手強い相手と見られているのです。