2人に1人が罹患し、最も命を落とす人が多い病気であるがん。増加の傾向は世界的なものだが、どの部位にできるのか、またそれを予防するためには何が必要であるのかは遺伝子や生活習慣によって大きく異なる。つまり“お国柄”があるのだ。そこで日本人のためのがん予防法に迫る。【前後編の前編】
日本において毎年新たにがんと診断される人数は約100万人。2人に1人が生涯のうちにかかるといわれ、死因のうち最も多くの割合を占める、いわば“国民病”。
罹患者の増加に伴って研究も進み、なりやすい人の共通点から本当に正しい予防法までさまざまな調査が行われている。とりわけ、いま多くの専門家たちが注目しているのが、がんができる部位や、それに対する有効な予防法に「日本人ならでは」の特徴があることだ。
食道から子宮まで—体のあらゆる場所にできるが、そもそも日本人のがんはどの部位に多いのか。
国立がん研究センターが発表しているデータによれば女性に最も多いのが乳がんで、全体の22.5%を占める。次いで大腸がん(15.7%)、肺がん(9.8%)だ。一方で男性は、前立腺がんが全体の16.7%を占め、大腸がん(15.5%)、胃がん(15.1%)と続く。
死亡者数は男性の場合、肺がんが5万3247人と最も多く、がん全体の24%を占める。女性は大腸がんの死亡者が2万4070人で、乳がんよりも多い。
同センターで長年にわたって日本人のがんの研究に取り組んできた、がん対策研究所予防研究部長の井上真奈美さんは、かかりやすいがんの種類は時代とともに変化すると話す。
「昔は男女ともに最も多いのは胃がんでしたが、近年は減少傾向にあります。その一方で増加しているのは大腸がんと乳がん。特に乳がんの罹患者数はここ20年で2倍に増加しています」
日本人のピロリ菌は悪性度が高い
驚くべきは、そうした傾向が欧米とは大きく異なることだ。東京大学医学部附属病院放射線科の特任教授、中川恵一さんが解説する。
「日本人のがんの大きな特徴は感染症を原因とするものが多いことです。男女合わせて17%を占めています。
近年減少傾向にあるとはいえ、依然として胃がんの罹患率は諸外国と比較すると極めて高く、原因の95%はピロリ菌だといわれています。日本人はピロリ菌の保有率が高く、高齢者は80代で8割、60代で約5割、40代で約4割、20〜30代でも2〜3割といわれています。
背景には、衛生環境の近代化の遅れがあります。上水道が早々に整備され、冷蔵庫も世界に先んじて普及したアメリカでは、ピロリ菌の感染率が低く、胃がんの人はほとんどいません」
医療ジャーナリストの村上和巳さんも、海外では胃がんは“希少種”だと指摘する。
「特に欧米では罹患者は少ない。日本ではピロリ菌の保有者が多いうえ、菌の種類が欧米とは異なるのも特徴です。東アジア圏のピロリ菌は、特に発がん性が高いことがわかっています。
加えて、日本人は塩分摂取量が多いことも胃がんが多い要因でしょう。みそやしょうゆなど普段の食事で無意識のうちに塩分を大量に摂取している人は少なくありません」