2人に1人が罹患し、最も命を落とす人が多い病気であるがん。増加の傾向は世界的なものだが、どの部位にできるのか、またそれを予防するためには何が必要であるのかは遺伝子や生活習慣によって大きく異なる。つまり“お国柄”があるのだ。そこで日本人のためのがん予防法に迫る。【前後編の後編。前編から読む】
罹患しやすいがんの種類から時期まで──海外とは大きく違う日本固有のがんの特徴に合わせて、しっかりと予防したい。しかし中には、やってもほとんど意味がない“欧米式”のがん対策も存在する。東京大学医学部附属病院放射線科の特任教授、中川恵一さんが解説する。
「筆頭は皮膚がん予防のための紫外線対策です。メラニン色素を作り出すメラノサイトが変異を起こして発症する皮膚がんには明確に人種差が存在します。白人はメラニン色素の関係で、紫外線を浴びすぎると皮膚がんのリスクが上昇しますが、日本人には当てはまりません。むしろ対策をしすぎるあまり日光を避けることで体内のビタミンDの量が減少し、免疫力が低下します」
そもそも皮膚がんの日本人における発生率はほかの部位と比較して低いうえ、ステージ1の状態で治療を受ければ5年生存率は100%だ。
紫外線対策と同様、「焦げたものを食べるとがんになる」というのも、迷信に近い。
「確かに、動物性たんぱく質が焦げると、発がん性物質になるという研究データはあります。ただ、毎日大量に摂取しないと、がんにはなりません。それよりもまず私たちが避けるべきは飲酒です。アルコールに関しては遺伝や人種の違いが色濃い。世界的に見ればお酒の影響によるがんの罹患リスクは約5%ですが、日本人男性は約10%と2倍になります」(中川さん)
背景にあるのは、持っている分解酵素の違いだ。中川さんが続ける。
「体内でアルコールが分解される際に発生する有害物質『アセトアルデヒド』はがんの原因になります。日本人や中国人には、遺伝的にアセトアルデヒドを分解する酵素が少ない人が多い。国民全体の約半数が、酵素を持たないか、働きが弱いことがわかっています」
アルコールとともに避けるべきは塩の過剰摂取だ。医療ジャーナリストの村上和巳さんはこう話す。
「日本は世界的に見て塩分摂取量が多い国です。胃がんを予防するためには、控えることが必要です。また、熱い食べ物は食道がんのリスクを高めるとの報告があるので、なるべく熱いものは冷ましてから食べるようにするといい。日本人の好きな熱いみそ汁は、塩分と熱さの“ダブルパンチ”です」
対して、積極的に摂るべきは野菜と果物だ。松生クリニック院長の松生恒夫さんが説明する。
「大腸がんの予防には食物繊維が有効です。特に、日本人に多いS状結腸から直腸にかけてのがんは、この部分に便を停滞させず、きれいに保つことが予防につながる可能性があります。野菜と果物をしっかり食べて、便通を改善しましょう」