冠動脈は狭窄していないのに胸の痛みが長引き、ニトログリセリンもあまり効かないのが微小血管狭心症だ。ごく細い血管の拡張が低下したり、一時的に過剰に収縮して症状が起こる。以前は閉経女性の病気と思われていたが、国際共同研究で男性患者も相当数いることがわかった。また不安定狭心症など心血管イベントの頻度も年率7.7%あり、微小血管ケアの重要性が高まっている。
狭心症は太い冠動脈が狭窄・閉塞して心筋に十分な血液が供給されず、酸欠になる病気だと考えられてきた。そのため狭窄が高度な場合は冠動脈にステントを留置し、血流回復の治療を行なう。しかし、太い冠動脈の狭窄が治っても約4割で胸の痛みが残り、ニトロさえ効かないことも。
結局、胸の痛みの原因が判明せずに医療機関を転々とし、最後は精神科を紹介される患者も少なくなかったのだ。
それが近年の研究により、心臓のごく細い血管の拡張低下や過剰に収縮することで症状が起こる微小血管狭心症の存在が明らかになってきた。
国際医療福祉大学副大学院長で東北大学名誉教授の下川宏明氏に聞く。
「血管造影で見ることができる冠動脈は全体の5%に過ぎません。わずか5%では胸痛を起こす原因の全体像が掴めません。そこで私は太い冠動脈だけでなく、細い血管を研究することで、微小血管狭心症が全身の血管病の一側面であることを突き止めました」
以前の微小血管狭心症は血管保護作用のある女性ホルモン(エストロゲン)が急激に減少する閉経前後の女性の特有な病気と考えられてきたが、7か国14施設が参加した国際共同研究で、男性患者も36%いることが判明。また追跡調査中に不安定狭心症など重大な心血管イベント発生頻度も年率で7.7%の数字を残し、冠微小血管の障害においても、かなり重篤な事態を引き起こすことがわかった。