支持率急落に歯止めがかからない岸田文雄・首相は、政治生命にかかわる大きな賭けに出た。それまでの慎重姿勢を一転させ、宗教法人を所管する永岡桂子・文科相に旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に対する解散請求を前提にした「質問権」発動を命じたのだ。政治ジャーナリスト・野上忠興氏が指摘する。
「国民は今回の質問権の発動を『岸田首相は旧統一教会をつぶす覚悟を決めた』と受け止めたはずです。もし、解散させることができなければ、首相への信任はいよいよ失墜し、政権を維持できなくなるでしょう。首相は教団解散の成否にクビを賭けることになった」
ルビコン川を渡ったのだ。
そうした状況を待ち構えているのが政権内で教団解散の急先鋒となっている河野太郎・消費者担当相だ。
8月の内閣改造で入閣した河野氏は、就任2日後の大臣会見で、首相の指示がないまま独断で消費者庁に旧統一教会問題をめぐる検討会(霊感商法等の悪質商法への対策検討会)の設置を表明、9月末にはこれまで非公表だった旧統一教会や霊感商法に関する消費生活相談の件数を公表するなど、教団追及に力を入れてきた。そしてこの10月17日に提出した検討会の報告書にこう提言を盛り込んだ。
〈旧統一教会については、社会的に看過できない深刻な問題が指摘されているところ、解散命令請求も視野に入れ、宗教法人法第78条の2に基づく報告徴収及び質問の権限を行使する必要がある〉
消費者庁の検討会が所管外の宗教法人法の発動にまで言及するのは異例中の異例だ。ジャーナリスト・田中良紹氏は河野氏の動きをこう分析する。
「岸田首相が今回の内閣改造で河野氏を取り込んだのは、総裁選で争った経緯もあり、入閣させて動きを封じる意図があったのでしょう。河野氏は消費者相という前回の外相と比べると降格に等しいポストを受け入れたが、それを逆手に取って旧統一教会追及の先陣を切ることで、岸田首相の実行力のなさを露わにしようとしているかのように見えます。
河野氏のマイナンバーカードの事実上の義務化宣言でも、自身の発信力、実行力の強さを示し、岸田首相の力不足を露わにしました。岸田首相は旧統一教会問題への強硬姿勢で総裁選を争ったライバルの河野氏に負けたと思われないためにも、それまで慎重だった宗教法人法の質問権発動に動かざるを得なくなった」