内科医の大脇幸志郎氏は、日本の医学界の間違った“常識”を鵜呑みにして、かえって生活の楽しみを損なうリスクに警鐘を鳴らす。そのなかには「飲み物」の誤った常識も含まれていた--。
* * *
私はまず、率直な気持ちで言うと、「健康」がゴールになっていることがよく分かりません。
健康という言葉は非常に抽象的で、人によってイメージする内容が違う。WHO(世界保健機関)の健康の定義は、身体だけでなく心も人間関係もあらゆる問題が解決されたパーフェクトな状態と言わんばかりですが、そんな状態には誰も到達できるはずがありません。
歳を取れば、誰でも老化に伴い脳卒中や心筋梗塞になります。まずは、その前提を理解する必要があるでしょう。
病気を治してほしくて受診する患者に、医師は「食事に気をつけて」と促します。高血圧と塩分、コレステロール値と脂質などが槍玉に挙がることが多いですね。治療らしい治療がなかった時代なら、自然な発想でしょう。しかし、必ずしも食事が病気の原因になると証明されてはいない。
代表的なのが、痛風とビールやプリン体の関係です。
「尿酸値」は気にするな
痛風とプリン体に関しては、以前から大きな誤解があり、診察ガイドラインで臨床医に注意が促されるほどです。
まず、そもそもビールにはプリン体が少ない。プリン体は細胞の核に含まれる物質で、生物の細胞が含まれる食品なら何にでも入っています。飲み物に占める細胞の割合は少ないため、肉や魚に比べてビールに含まれるプリン体はわずか。
肉1皿のプリン体に相当する量を摂取するにはビール1リットルほど必要です。深酒をしない限り、肉や魚などのプリン体に相当する量がビールから入ることはありません。
また、痛風の元となる尿酸は、食べ物由来のほかに自分の身体由来のものもあります。体内で合成される尿酸は、食事から摂取する量の3~5倍と言われています。極端な量の肉や魚を摂取しない限り、食事由来の尿酸は誤差の範囲内です。
さらに、血液検査で尿酸値が高くなると痛風になると思っている人が多いですが、話はそう単純でもない。
統計的には尿酸値の高い人のほうが痛風の確率は上がりますが、実は尿酸値が低い人も痛風になります。痛風の診断基準にある11項目の一つが尿酸値であるに過ぎません。ガイドラインにも、「尿酸値は必ずしも高値を示さない」と記されるほど、痛風と尿酸値の関連性は弱いものなのです。