前号(週刊ポスト2022年10月28日号)で冠動脈狭窄がないのに胸痛が続く、微小血管狭心症について紹介した。この病気の診断は冠動脈造影だけでは難しい。そのため冠動脈に細いガイドワイヤーを入れ、通常状態の血流と、薬剤で血管を拡張させた時の血圧と温度の差で診断できる検査法が確立した。治療は主に薬と生活習慣の改善だが、低出力パルス波超音波治療という新しい治療法も注目されている。
微小血管狭心症は冠動脈の狭窄・閉塞はないが、心筋内の直径100μm以下の微小な血管(動脈)の機能異常で、一時的に心筋虚血が生じる。主訴は長く続く胸痛だ。胸痛と心電図のパターンは通常の狭心症と同じだが、労作時以外に安静時にも胸痛を生じることがある。また通常の狭心症の胸痛はニトログリセリンで軽快するが、微小血管狭心症の場合は数時間続くこともあり、半数でニトロが無効だ。
前号に続き、国際医療福祉大学副大学院長で東北大学名誉教授の下川宏明氏に聞く。
「微小血管狭心症は診断が難しいのが問題でした。なにしろカテーテルを利用した冠動脈の狭窄を見る造影検査でわからないのですから。そこで先端にセンサーが付いた細いガイドワイヤーを冠動脈に挿入し、通常状態と薬剤を注入した際の血流(圧)と温度の差で検査する方法が開発されました。結果、冠微小血管の拡張障害・過剰収縮といった機能異常の評価ができるようになりました。冠動脈造影の際に30分ほど時間を追加すれば検査可能です」
この検査法で、微小血管障害には4つのタイプがあることが判明した。タイプ(1)は冠微小血管だけに障害がある純粋な微小血管狭心症。タイプ(2)は心筋症に伴う微小血管障害。タイプ(3)は太い冠動脈の狭窄・閉塞に伴い微小血管にも障害が出るタイプ。
そして、タイプ(4)はカテーテル治療による医原性障害だ。これは狭くなった冠動脈にステントを入れて血管内のプラーク(脂肪など粥状の物質)を挫滅する治療の際、プラークから遊離した脂質などの成分が微小血管に飛び、障害を作ってしまう。結局、ステント治療を繰り返すことで、微小血管障害を作り出す悪しき現象も起こっているのだ。