映画『ラスト サムライ』で大きな衝撃を受けた配役として、これまで京都で撮影される東映時代劇で斬られ役一筋で生きてきた福本清三さん(2021年に77歳で死去)が、大役で抜擢されたことが挙げられる。キャスティング・ディレクターの奈良橋陽子氏に、福本が抜擢された経緯について、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が聞いた。
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奈良橋:いろいろと配役が決まっていった最後に、監督が「もう一つ役があるんだ」って言うんです。「サイレントサムライ」という、ひと言も話さない役を入れたいと。その役が清三さんだったんです。
――奈良橋さんは福本さんを既にご存じだったのですか。
奈良橋:はい。絶対に彼を応援したいと思っていたんです。その時は私も監督に信用してもらえていたので、清三さんを推薦したら、もう彼だけ一発OKですよ。
「この人がいいと思う」ということで、こちらでプレゼンテーション用にテープを撮っていたんですよ。何度も清三さんに斬られて死んでもらったりして。それを監督に送ったら、「オッケー!」って。
清三さんは、私の中ですごく大事にキープしていたんです。これぞというタイミングがあった場合は推薦しようと思って。すると、「まさに」の役柄の話が来たわけですからね。もう「神さま、ありがとう」って思いました。私、他の俳優の選択肢は用意していませんでした。
真田広之さんも彼を応援していて、「すごく嬉しかった」と言ってましたね。
――真田さんと福本さんは東映で長いお付き合いですからね。
奈良橋:そう。清三さんに決まったことは、本当に多くの人に喜んでもらえました。そういう喜びがキャスティングにはあるんです。
ずっと努力をして、それでも日の目を見ない方にチャンスが来る。これは、キャスティングをやっていての、大きな喜びですね。
ハリウッド映画にはなぜそういうチャンスがあるかというと、アメリカの監督やプロデューサーは日本人の役者についてあまり詳しくないんですよ。だから、「この人は売れている人かどうか」という目で見ないんですよね。