薬にはベネフィット(利益)とともにリスクがつきものだ。薬をたくさん飲みすぎる「多剤併用」の解消は多くの人にとっての課題だが、『80歳の壁』著者で精神科医の和田秀樹医師は「優秀な医者ほど、自分では薬なんて飲んでいませんよ」と明かす。和田医師が、日本の医療の「薬」に関する問題点を指摘する。
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昔の医者は患者さんに薬は出すけど自分は飲みたがらない、という人が多かったように思います。
それが最近は、医者でも健康診断の数値が悪かったら、「血圧」や「コレステロール」を下げようとして薬を何種類も飲むような人が増えてきた。
その理由を突き詰めて言えば、医者に対する「教育」が悪いからです。
検査データをすべて正常値の範囲内に収めなければダメだと思い込んでいる。患者さんだけでなく、医者も“高血圧教”の信者になっているようなものです。
だから、例えば僕みたいに血圧が200以上になることがあると、焦って薬を飲んで数値を下げようとするわけです。
でも血圧のコントロールは食事、運動などの生活習慣の改善が必要なんですよ。そもそも、数値だけにこだわる必要がありません。医学的な統計上、高齢になるほど血糖値もコレステロール値もBMIも、基準値より少し高めのほうが元気で長生きできるのです。
最新の知見に基づく情報を正しく仕入れている優秀な医者ほど、そのことを知っているので薬は飲みません。
例えば健康診断では腹囲と血圧、血糖、脂質の数値をもとに「メタボ」かどうかが判定されます。しかし、その「メタボ」という言葉、概念を日本で広めた大学の先生自身が、ちっとも痩せていませんから(笑)。ご自身はそのほうが元気で長生きできると知っているのでしょう。
そもそも、病気か健康かの診断を分ける現在の「基準値」は厳しすぎます。もっと言えば、“間違って”いる。
薬を飲ませるために「基準値」を下げ、正常とされる範囲内に患者の数値を収めようとして、薬をどんどん出す。そうやって、多剤処方に歯止めがかからない構造を生み出しているのです。