今年6月の改正放送法の成立を受け、NHKは値下げやチャンネルの停波といったスリム化案を公表した。その一方で、「罰金」制度による受信料の徴収強化も注目されている。果たして、本当の改革と言えるのか──。【全3回の第2回。第1回から読む】
どんどん増える収入は、何に使われているのか。
2021年度のNHK単体の事業支出は6609億円(小会社を含む連結では7057億円)で、そのうち約2900億円が「国内放送費」として番組の制作費などに充てられる。その潤沢な番組制作費の使い途にも批判が出ている。NHK問題に詳しいジャーナリスト・小田桐誠氏が指摘する。
「2009年から3年間にわたって放送されたNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』の制作費が、大型プロジェクトだったとはいえ250億~300億円ほどだったと言われ問題視されたことがあります。また、昨今ではタレントを使った民放と似たようなバラエティ番組が増えてきたことも疑問です。NHKから民放にどんどん近づいていってどうするのでしょうか」
公共放送であるNHKは、受信料収入がベースである以上、質の高いドキュメンタリーや報道、教育系番組といった、民放では作ることのできない番組を求められるのは当然のことだろう。
上智大学文学部新聞学科教授でジャーナリストの水島宏明氏は、NHKの番組編成について一定の評価をする意見だ。
「NHKの受信料がはたして適正かという問題は残るにせよ、視聴率の指標では測れない公共性のある番組作りができている点は評価できると思います。例えば、Eテレ『こころの時代』(日曜5時~)では宗教二世の問題を非常に熱心に取り上げている。また、同じくEテレ『バリバラ』(金曜22時30分~)は、民放が及び腰になる部落問題を取り上げる回を設けて注目されました。
一方、若者を中心にテレビの視聴者が減っているなか、バラエティ番組にも力を入れて視聴率を取ろうと努力している側面はあります。前田晃伸会長の方針のもと、『民間の発想でもっと見られる放送局への脱皮』を目指している。それは各所でNHKが批判を受けるなか、視聴率が悪いとNHKの存在意義を問われかねないからでしょう」
そう肯定的に評価しつつも、「昨今のNHKの報道姿勢については、疑問視せざるを得ない」と、水島氏が続ける。
「特に2012年以降の安倍・菅政権下で改憲に疑問を呈す憲法学者を出さなくなり、全くといっていいほど政権批判を見なくなりました。NHKの予算審議の兼ね合いがあるのでしょうが、同じく公共放送のイギリスBBCと比べると、政権への忖度が目に付きます」
(第3回に続く)
※週刊ポスト2022年11月11日号