安倍晋三・元首相の国葬後の各紙世論調査で「実施すべきではなかった」「実施して良かったとは思わない」などの否定的な意見が毎日新聞60%、産経新聞59%、読売新聞54%と軒並み過半数を超えていたにもかかわらず、国葬に新聞・テレビ各社の経営トップがこぞって参列したことは、国葬批判報道とのギャップを際立たせ、国民のメディア不信を高めた。
大メディア内部からも批判の声が上がった。本誌・週刊ポストは、国葬後の10月3日、国葬批判の記事を多く配信してきた大手通信社の共同通信社の内部で、政治部のベテラン記者A氏が、政治部全員が参加するメーリングリストに、同社の水谷亨・社長の国葬参列に抗議する内容のメールを実名で送って記者たちの大きな反響を呼んでいることを報じた。
国葬の招待状は葬儀委員長を務めた岸田文雄・首相の名前で送られた。岸田首相が大メディアの経営幹部を数多く国葬に招待したのは、政権に批判的な現場記者たちを萎縮させ、国葬批判の矛先を鈍らせる狙いがあったことは間違いない。国葬招待はいわば、報道機関に対する“踏み絵”のようなものだった。
そして多くの新聞社、通信社、テレビ局が踏み絵を踏むと、政府の狙い通り、現場の記者から国葬に参列した経営幹部たちへの批判が上がり、社内の分断を生んでいるのだ。
主要メディアの経営幹部が国葬に参列したのは新聞社では毎日新聞、読売新聞、産経新聞、日経新聞、通信社が共同通信と時事通信、テレビはNHKと日本テレビ、テレビ朝日、TBS、フジテレビ、テレビ東京の民放キー局5社だ。朝日新聞と東京新聞は参列しなかった。
本誌は改めて各社に国葬への参列者と参列した理由、国葬出席にあたり、幹部から国葬の報道の仕方について現場記者に指示はあったかを問うた。
「国葬参列の理由」は大きく2つに分かれた。ひとつは「故人に弔意を示すため参列した」という説明だ。岡田直敏・会長と長谷部剛・社長が参列した日本経済新聞は「故人に哀悼の意を表するため参列しました」(広報室)と回答し、共同通信(水谷亨・社長が参列)、時事通信(境克彦・社長が参列)、テレビ朝日(篠塚浩・社長と浜島聡・BS朝日社長が参列)、TBS(河合俊明・副社長が参列)、テレビ東京(石川一郎・社長が参列)も同様の説明だった。
また、日本テレビからは杉山美邦・会長、石澤顕・社長、小杉善信・顧問(元副会長)の3人が参列したが、同社は「安倍元首相に関する個人的な繋がりや、哀悼の意を示す観点から、出席をそれぞれの判断で決め国葬に参加いたしました」(広報部)と、あくまで個人的な参列だと説明した。