ライフ

山下裕二氏が解説 2023年大河『どうする家康』ゆかりの名刹「増上寺三門の威厳」

三解脱門外観

三解脱門外観

 元和8(1622)年に建立され、今年で400年を迎える増上寺の三解脱門(三門)。国指定重要文化財であり、通常非公開の三門の内部が11年ぶりに特別公開されている(11月27日まで)。徳川家の菩提寺として知られる増上寺。その縁は2023年の大河ドラマ『どうする家康』の主人公・徳川家康により結ばれたと、美術史家で「日本美術応援団」団長の山下裕二氏が歴史を辿る。

「家康公が増上寺住職の源誉存応(げんよぞんのう)上人に深く帰依し、徳川家の菩提寺として選んだのは安土桃山時代のこと。当時は江戸城西側にあたる江戸貝塚(現・千代田区平河町~麹町付近)にありましたが、菩提寺となったことで慶長3(1598)年に現在の港区芝へ移転。この地は江戸城の南西側の裏鬼門にあたります。北東側の鬼門にあたる上野にはもうひとつの菩提寺・寛永寺があり、江戸幕府が開府すると江戸城を護るお寺として共に大きく栄えました。増上寺には家康公が神格化された肖像画『徳川家康公像』なども遺されています」(山下氏、以下同)

 家康の手厚い庇護により芝へ移転後、増上寺には本堂と三門、経蔵を軸とした大伽藍の造営が進められた。

三解脱門楼上

三解脱門楼上

「三門は慶長16(1611)年に建立されましたが、元和7(1621)年に強風で倒壊。その翌年に再建されたのが、現在の三門です。建築様式は三戸二階二重門、入母屋造、朱漆塗。増上寺の表の顔として、朱塗りの威厳に満ちた外観は“寺格百万石”と謳われた風格を今に伝えています」

 三門は高さが約21mあり、楼上からはJR浜松町駅の方面へ向けてまっすぐに街を見渡せる。

「江戸時代には浜松町駅の線路のあたりに海岸線があり、増上寺門前町の賑わいの先に江戸湾を望むことができました。将軍家の菩提寺へ普段は庶民が自由に入ることはできませんでしたが、灌仏会や春秋のお彼岸など年に数回は三門へ登ることが許されたそう。格好の展望台として三門へ人々が集い、江戸庶民が眺望を愉しんだ様子は歌川広重(初代)などの浮世絵にも描かれています」

 楼上には釈迦三尊像と十六羅漢像、増上寺の歴代上人像が安置されている。

「釈迦三尊像と十六羅漢像は長門(山口)の泰然寺に安置されていたものを、幕府の命により、彩色を施して寛永元(1624)年に増上寺へ安置されました。仏師・宗印一門の造像とされ、非常に丹念に造られています。増上寺といえば寺宝として幕末の絵師・狩野一信による100幅に及ぶ『五百羅漢図』があり、三門の十六羅漢像を拝むと、この超大作とのかかわりを感じずにはいられません。

 一信の『五百羅漢図』は大殿地下1階の宝物展示室に10幅単位で常設展示され、現在の展示は羅漢が洗仏など善い行いや奉仕をする様子を描いた第71~80幅。仏の教えを広める寺院を建てるために大工仕事に精を出す羅漢の姿は人間的で、三門に安置された十六羅漢像の穏やかな佇まいを拝むことでより親しみもわいてきます。楼上は間口が約19.5m、奥行きが約9mあり、一信はおそらくあの広々とした空間で十六羅漢と正面から向き合いながら緻密に『五百羅漢図』を描き上げたのではないだろうか──三門を訪れると、そんな想像も膨らみます」

絹本着色徳川家康公像

『徳川家康公像』

 幕末の戊辰戦争で上野の寛永寺の伽藍霊廟は大部分が失われるも、芝の増上寺は被害を免れ、東京の観光名所として発展。だが、増上寺も昭和20(1945)年の東京大空襲で伽藍霊廟の多くが焼失してしまった。

「戦禍をも乗り越えたのがこの三門。今では都内有数の貴重な歴史的建造物であり、三門として東日本最大級の大きさを誇ります。次回の公開は未定とのことで『江戸』の面影を感じる、絶好の機会です」

取材・文/渡部美也

【プロフィール】
山下裕二(やました・ゆうじ)/1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻、小学館刊)監修を務める。日本美術応援団団長。近著に日本美術応援団の団員・壇蜜と美術館の常設展を巡る『私を美術館に連れてって』(小学館刊)。

国指定重要文化財 三解脱門 建立400年記念特別公開
住所:東京都港区芝公園4-7-35 大本山増上寺 公開:11月27日まで 時間:10時~16時半(最終入場16時)※混雑状況により変動の可能性あり 休:火 料金(記念品付):一般1000円

増上寺 三解脱門展
会場:東京都港区芝公園4-7-35 大本山増上寺 大殿地下1階宝物展示室 会期:11月27日まで 開館:10時~16時 ※新型コロナウイルスの影響により時間短縮の可能性あり 休:火 料金:一般700円/徳川将軍家墓地との共通券料金:1000円

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン