奈良橋陽子氏はキャスティング・ディレクターとして、『ラスト サムライ』をはじめ『SAYURI』『バベル』など、多くのハリウッド映画で日本人俳優の配役を担ってきた。日本の芸能界とアメリカの映画会社。ルールや常識が様々に異なる双方の橋渡しをどのようにしてきたのか、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が、キャスティング・ディレクターの奈良橋陽子氏に聞いた。
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――アメリカ映画では、トップクラスのスターを除くと、名前のある俳優でもオーディションで決まっていきます。日本の俳優はそれをどう受け止めているのでしょう。
奈良橋:『ラスト サムライ』の頃は抵抗を感じる方もいたかもしれませんが、今は皆さん慣れてきましたね。やっぱり実績のある方はオーディションって嫌だと思うんです。特に落ちた場合。
でも「落ちた」って思うより「素晴らしいオーディションに参加した」と思うことが大事です。それが次に繋がる場合が絶対にありますから。だから「落ちても全然へっちゃら」と思って受けていただいたほうがいいですね。アメリカの俳優はみんなそうですよ。みんなパッパ、パッパとやって、全然平気。
――日本のドラマや映画では俳優が掛け持ちをすることが多く、スケジュールを押さえるのが大変だと聞きます。
奈良橋:これが一番の葛藤です。だけど、逆にアメリカ側にも日米ではシステムが違うことを知ってほしい。
アメリカの場合は、映画に出演する場合はスケジュールの優先権があるわけですが、それはその期間は映画にだけ出ていれば十分なお金がもらえるからなんです。ですから、売れている方は、もうスケジュールがないんです。
でも、日本はそうではありません。CM出演とか他の仕事をして、マネジメントしてもらいながら俳優は生活しています。アメリカ並みにひとつの大きい仕事で多額のお金をもらえたらそういうことはないと思いますが、日本は市場も小さいですし、いろいろな仕事をやらないと生活できないことがほとんどです。
日本の場合は、売れている方を使う場合はお互い譲り合って仲良くやってスケジュールを調整していくわけですよ。でも、アメリカの場合は「これだけ予定を空けておかないと駄目だよ」というシステムです。