東日本大震災以降、災害に見舞われるたびに「絆」が何かと強調される場面が増えていた。ところが、2021年から続く新型コロナウイルスによる災禍に対してはどうだろうか。仕事も学校も、生活の在り方も変化をせまられる状況のなかで、あって当たり前として扱われてきた家族の絆はどうなっているのか。ライターの森鷹久氏が、普通の家族に起きている、絶望的な分断についてレポートする。
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新型コロナウイルスの感染者数が横ばいになり、世間はにわかにかつての日常を取り戻しつつある。少し前までは「●●が感染したしたらしい」とか「▼▼はワクチンを打たない主義らしい」などといった噂話が市民の間に飛び交い、コロナやワクチンに対するスタンスの違いから、家族関係や友人関係が分断されてしまうという事例も少なくなかった。
しかしそれもこれも、非常時だったから仕方ないことで、日常が戻ってくれば元通りになるはず。そんな淡い期待を寄せていた人たちは今、日常が戻りつつあるなかで、人知れず絶望している。
「ワクチン反対なのは仕方が無いし、家族といっても個人の意見だから尊重しようと思いました。でも、今の家族を見て、もう昔みたいな仲には戻れないし、何より許せないと思いました。今後、少なくとも私から連絡をとることはありません」
涙声でこう訴えるのは、九州出身で東京都内在住の看護師・堀田映子さん(仮名・30代)。医療従事者の堀田さんは、コロナ禍直後から勤務先の病院が新たに設置したコロナ病棟に勤務し、2週間近く自宅に帰ることができないなど、過酷な状況下で仕事をし続けた。もちろん、ワクチン接種をいち早く済ませ、医療従事者として自身が感染することのないよう、最善の注意を払ってきた。
九州で暮らす高齢の両親、そして弟夫婦のことも気にかけ、週に一度は「感染しないよう気をつけて」「ワクチンは早めに打って」と電話で話をしたという。しかし、妻と子供の3人で地元で暮らす弟は、いわゆる「反ワクチン」。妻と子供にもワクチンを打たせないどころか、両親にまで「打つな」と強要していた。医療従事者としては、忸怩たる思いだったという。
「もちろん、ワクチンは強要されるものではありませんが、接種しないよう強要するのもおかしいと弟には話しました。それでも、姉ちゃんはテレビや新聞しか見ないから遅れている、ネットにはいろんな情報があって自分は勉強しているので間違いないと頑な。悲しかったですが、それでもやっぱり弟。見放すことはできず、いつも体調を気にしていました」(堀田さん)