犯罪行為に手を染めてしまうのは、一部の人だけだ。しかし、犯罪へと突き進んでしまいそうになった瞬間を経験している人もいるのではないだろうか。『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子が、“心のなかに住む犯罪者”について綴る。
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つい先日、SNSに「小学生の息子が私の財布からお金を抜いた。悲しくて泣きながら息子を問い詰めた」という母親の嘆きが投稿されていたの。夫も加わり、数時間かけて、懇々と、息子をさとしたそうな。
それに対するコメントのほとんどが、「早めに手を打ってよかったですね」という中、「オレもけっこう抜いたし、抜かれたな」という短い書き込みを目にしたので、私もつい書き込んだ。
「え~、ふつうやるでしょ、と思ってた(笑)。何度かうまくいったと思っていた小3のある日、『最近、財布の金が足りねぇんだよな』と母親からギロリと睨まれた。騒がれるよりずっとイヤな気持ちになって、それからやらなくなった」と。
しばらく前のこと。
マジメ一方と思っていた10才年上の仕事仲間の女性を含めて何人かとお酒を飲んでいたときのこと、彼女が「私は万引をしたことが一度もないと言う人を信用しない」とサラッと口にしたんだわ。すると、「えッ?」と顔を上げた人、黙ってうなずく人、あらぬ方向を見て目を泳がせる人。そりゃあ、“さざ波”どころではない荒波が立ったわよ。
彼女は決してお金に困っている人ではない。都内の持ち家に住み、セカンドハウスも持っている。「でも、まさか、最近はしていないでしょ?」と恐る恐る聞くと、「これ」と言って、バッグにつけた熊のぬいぐるみのキーホルダーを見せたの。
「別に買ってもいいんだけどさ。店員の配置とか防犯カメラの位置とかで『盗り頃だな』と思う瞬間があるのよ」
それでサッとポケットに入れたら、レジで「これですべてですね」と念を押されたんだって。「そういうとき、『えっ、どういうこと?』と怒ったらダメ。かといって引いたら負けでね」と彼女は胸を張ったけれど、(これ以上ヤバいことを言わないで)と思った私は、そこで大きく話題を変えた。同席したみんなも安心したようにすぐに乗ってきた。当時、彼女が大きなストレスを抱えていたことは知っていたけれど、それとこれとは話はまったく別だもの。
「万引というと“出来心”っていう軽い感じになるけど、要は窃盗ですからね」。そう言ったのは、取材で知り合った万引きGメンだ。化粧っけのない地味な印象の彼女はギラリと目を光らせて、こんな話もしてくれた。
「スーパーの開店時間に入り口に立っていると、この人とあの人が万引するってわかるのよ」
なんでも、普通の買い物客と違って、万引する人は防犯カメラの位置をチラチラ見ているんだそうな。