西武の森友哉や日本ハムの近藤健介、DeNAの嶺井博希らが目玉となっている今年のフリーエージェント(FA)市場。昨年FA選手の獲得に動かなかった巨人の原辰徳監督は、「今年ジャイアンツはほとんどお金を使っていない。今年は戦力補強という点で少々貯金もあるようなので、使ってくれるということです」と球団OB岡崎郁氏のYouTube公式チャンネル『アスリートアカデミア』で補強に前向きな姿勢を見せた。今年はシーズン中も若手育成に力を入れ、試合で積極的に起用してきた巨人にどこまで補強が必要なのか。プロ野球担当記者が話す。
「巨人が本当に欲しいのは先発ピッチャーでしょう。長年エースを務めてきた菅野智之も以前ほどの安定感はありませんし、計算できる先発は今年12勝の戸郷翔征ぐらい。今年獲得したシューメーカーやアンドリースが結果を残せなかったように外国人は未知数です。とはいえ、FAで国内移籍しそうなピッチャーがいない。森友哉の獲得調査に乗り出しているようですが、キャッチャーには大城卓三や小林誠司、岸田行倫がいるし、山瀬慎之助や喜多隆介という若手も控えている。本当に森が必要なのかといえば疑問です」
巨人はFAや外国人の補強で生え抜き選手の出番を減らし、才能を開花させ切れなかった過去がある。首位・広島と最大11.5ゲーム差をひっくり返して『メークドラマ』を果たした1996年、42歳の4番打者・落合博満は打点王を狙える成績を上げていたが、8月31日に中日の野口茂樹から死球を受けて戦線離脱し、チームはピンチに陥った。しかし、代わりにファーストを守った29歳の大森剛が奮闘した。優勝を決めた10月6日の中日戦でホームランを放ち、オリックスとの日本シリーズでは第1戦の9回裏に代打同点2ラン、指名打者で先発した4戦目にも一発を放った。1989年のドラフト1位で、2軍では『ファームの帝王』と呼ばれるほどタイトルを取っていた大器がようやく花開くかと思われた。
「超ベテランの落合がライバルでしたから、大森は翌年チャンスがあると考えていたでしょう。しかし、オフに落合が退団し、西武からFAで同じポジションの清原和博がやってきた。同い年とはいえ、清原と大森では格段に実績が違った。結局、大森の輝きは一瞬で終わり、1998年のシーズン途中に近鉄にトレードされ、翌年限りで引退しています。
東京六大学で三冠王を取ったドラフト1位選手でしたし、1996年終盤の活躍を見ればチャンスさえ与えられれば、主軸を打てる素材だったと思います。大森と同じ年のドラフト3位である吉岡雄二は1995年の終盤にサードで固定して起用され、4本塁打、18打点と大器の片鱗を見せました。しかし、翌年ジェフ・マントの加入で控えに回り、マントがすぐ解雇されても吉岡にはチャンスがほとんど回らなかった。結局、1997年にトレードされた近鉄で主軸になり、2001年のリーグ優勝にも26本塁打、85打点で貢献した。巨人が我慢して使っていれば、松井秀喜とクリーンアップを打っていたかもしれません」