春4度、夏5度の全国制覇を成し遂げた高校野球の“常勝軍団”大阪桐蔭高校。数多のプロ野球選手を輩出してきたが、いま異変が起きている。ノンフィクションライターの柳川悠二氏がレポートする。
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3年前の秋、U-15侍ジャパンの試合が行なわれた愛媛・坊っちゃんスタジアムで目撃した一発が忘れられない。180cmを超える体躯の中学3年生はダイヤモンドを疾走し、センターからの強肩ぶりも目を見張った。その日、少年は言った。
「大阪桐蔭で春夏連覇を達成したい。目標はもちろんプロ野球選手です」
現役競輪選手の父を持つ海老根優大は今春の選抜、そして夏の甲子園でも特大の本塁打を放った。だが、プロ野球ドラフト会議で名前が呼ばれることはなかった。同校の西谷浩一監督は言う。
「足と肩は素晴らしいモノがある。バッティングをいかに上げていくかをテーマに取り組んできましたが、上のレベルに行くには認めてもらえなかった部分がある」
今年のドラフトでは捕手の松尾汐恩が横浜DeNAより1位指名を受けた。一方で海老根とエースの川原嗣貴が指名漏れ。OBでも上位指名が噂されていた立教大の山田健太や早稲田大の中川卓也が呼ばれず、厳しい現実が突き付けられた。
「こればかりはプロの評価なので、仕方ないと思っています。卒業生である山田も現実を理解して、もう一度、頑張ってくれるのではないでしょうか」
来春の選抜で大阪桐蔭は2連覇に挑む。隆盛期を迎える一方で、ドラフトではプロの“大阪桐蔭離れ”が起きている。なぜか──。
「目標は甲子園で勝つこと」
現在のプロ野球には23人の大阪桐蔭OBがいるが、今秋のFA戦線の目玉である森友哉(2013年入団、埼玉西武)以降、所属球団の顔となるような選手は生まれていない。
「プロにも(高卒、大卒、社会人からなど)色々な入り方がある。確かに森以降、レギュラーにはなれていないかもしれませんが、いずれにせよこれからです」(西谷監督)
2018年にドラフト1位で入団した根尾昂(中日)は守備位置が定まらず、今季途中から投手に。千葉ロッテの藤原恭大も定位置を確保出来ていない。さらにエース右腕だった柿木蓮(北海道日本ハム)、大型左腕の横川凱(巨人)も、今オフに育成契約を打診された。