“トラとミケ”が営む“どて煮屋”に集まるお客たちの人生模様を描く漫画『トラとミケ』の第4集が発売された。優しい画風で描かれるこの作品について、画家の塩谷歩波さんが綴る。
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『トラとミケ』は、全体的に優しい水彩色で仕上げられていますね。私も絵を描いているので、どのページの絵も、純粋にすごく素敵だなと思いました。
描写のリアルさを感じたのは、第46話「霜夜の候」にある銭湯のエピソード。私も以前、まさに作中の「またたび湯」のような銭湯で番頭をしていましたし、全国100軒ほどの銭湯を巡ってきました。その経験から、洗い場でおばあちゃんと小さな子のやりとりが描かれているのを見て、「こういう光景、令和の今もあるな」とうれしくなりました。
ご高齢で運営が負担になり、銭湯を畳まれるという話も、閉店の時に店主さんから子どもたちにアヒルのおもちゃをあげる光景も、よくあります。最後にはみんな、「ありがとう」と言って銭湯を後にするんですよね。こういう少し寂しい話でも、絵がきれいで、明るくて、心が洗われました。
登場人物は、みんな優しい。居酒屋を切り盛りするトラもミケも、その常連さんたちも、街の人々も、みなが誰かのことを思っています。
例えば、同級生の中村さんが癌で余命いくばくもないことを知ったとき、トラたちは、助かる治療法を必死に探しました。一方の中村さんは亡くなる直前まで周りの人たちのことを思って、相談に乗ったり励ましたり……。そうした優しさって素敵だと思いますし、ものすごくホッとさせられます。
最後、中村さんが生前、自宅の庭にまいた種から青いお花が一面に咲いている描写で締めくくられます。亡くなった後にそうやって形に残るものがあるということにとても感動しました。セリフが一つもないのに、感情が伝わってきて、こんなに引き込まれるなんて。絵の力に圧倒されました。
【プロフィール】
塩谷歩波(えんや・ほなみ)/画家・設計事務所、東京・高円寺の銭湯・小杉湯の番頭を経て、現在は建物の図解を制作。著書『銭湯図解』が話題に。
※女性セブン2022年11月10・17日号