「新興宗教では教祖こそが信じるべき存在だが、組員にとっては自分が信じる宗教以上に、ヤクザのトップの方が絶対的存在。組員は戦時中の日本兵みたいなものだ」

 幹部はその話しの流れで、「暴力団も山口組なら山口教、稲川会なら稲川教があるようなもの」と表現したが、宗教より”国家主義”という方が当てはまるだろう。

 国家主義は個人やあらゆる集団よりも自身の国家が第一義と考え、そこに君臨する君主の権力は法や道徳、宗教よりも優位であるという思想になる。国家の価値を守るためなら、個人の利益や幸福が損なわれてもかまわないとされるため暴力的な言動が起きやすく、暴力団組織の在り方を思い起こさせる。なので、たとえるなら六代目山口組は山口主義、稲川会なら稲川主義といったところではないだろうか。

 組織にはトップには決して嫌とは言えない絶対的な決まりがあり、襲撃に行けと言われれば行くしかない。身体や命を賭けろと言われれば、賭けるしかない。

 組長が絶対的な存在として君臨する国家主義的組織の中で、自らが信じる宗教を持つ組員は、敵対組織の事務所や相手を襲撃したり、殴り込みをかける”カチコミ”に行った後、特に強い信仰を持たない組員とは少し異なる受け止め方をすることがある。逮捕され有罪が確定したとき「死刑になるところを、信心があるから無期懲役になった」「懲役15年の実刑のところ、毎日熱心に拝んでいたから10年になった」と、その信仰をありがたがるのだという。

「稼業では、そこで自分に奇跡が起きたから他の人にもと思って動くと間違う。別に宗教や信心があるから実刑が軽くなったのではなく、これまでの判例に沿って判決が下りただけだが、組員は宗教のおかげで”奇跡”が起きたと信仰を深くする」(幹部)

 その奇跡について「どの宗教も売りは”奇跡”だ。小さなことであれ大きなことであれ、思いがけなくいい事が起こると、それがその人にとって奇跡の体験になって、宗教を信じる根本になる。霊感商法の商品は奇跡を願う心の拠り所になるから、買ってしまうんだろう」と話す。

 そして世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中富広会長が会見で述べた「我が家に行けば、お壺も何個もありますし、多宝塔も2個あります。もうとにかく霊感商法商品だらけです」という発言を例に出した。

「この発言を裏返せば、この人は商品を沢山買っていい事が起きたと取れる。結果としてトップになったんだから。霊感商法で壺を買う人は、それを買えばきっといい事が起こる、良い方向へ行くと思うから買う。それが高じると願いは欲に通じる。壺を何十個か買えば、トップになれると言われたら買う人はいるだろう」(幹部)

「俺たちは組のためにどんなに金を使おうが、いくら金を作ろうが取り立てていい事はないがね」と苦笑いする幹部。それでも組の掟に黙って従うのが組員の務めなのだ。

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