手術当日の朝、同じ手術を経験した先輩から「まな板の上の鯉になればいいのよ」と声をかけられた
元気な笑顔がトレードマークの「オバ記者」こと野原広子さん(65才)。女性セブンの名物ライターとして活躍する彼女を不調が襲った──。オバ記者が綴る、病の床からの回想レポートです。【第1回】
* * *
30℃前後の暑さが続いていた8月下旬。電通OBの不正疑惑や首相のコロナ感染で世間が騒ぐなか、オバ記者は大学病院の一室にいた──。
「おそらく……卵巣がん、でしょうね」
「ふむふむ。ん……えっ、いま、がんって言いました?」
大学病院の小さな診察室で、40代半ばとおぼしきスレンダーな女性医師が、あまりにもサラッと「がん」と言ったので聞き逃しそうになった。
「ええ、まだハッキリとは言えませんが、がんと思っていただいていいと思います」
パソコンから目を離してハッキリとした口調で言う医師になんと返したらいいのか。(ちょっとぉ、聞いてないよ~!)と叫びたくなる気持ちをどうにか抑えつけて聞いた。
「……がん、ですか? で、ステージはどうなんですか?」
「ん~ん」
医師はもう一度、パソコンに視線を移す。
あぁ、もう、このタメがたまらない。次にどんな怖い言葉が出てくるのか。やだ、体が痺れて動けないよ。
私の心の動揺を尻目に、彼女は淡々と言う。
「腫瘍の大きさから見てステージIくらいだと思いますが、卵巣がんは手術して病巣を取り出し、病理検査をしてみないとハッキリしたことはわからないんです。ですから、正確に言えば、“卵巣がんの疑い”ですね」
「……はい」
こうして私は「卵巣がんの疑いの人」になった。
とはいえ、大学病院でそう言われたからといって、すぐに納得できるものじゃないんだよね。
診察を受ける前にネットで調べたら、「閉経後の卵巣の腫瘍は90%良性」と書いてあったし、その2週間くらい前に受けた区の婦人科検診で「右の卵巣が腫れて、12㎝くらいになっています」と告げられたとき「がんの可能性は?」と聞いたら、「それはほとんどないと思います」と言われていたんだもの。
その後、念のため、女医さんばかりの婦人科医院を選んで診察を受けて、そこでも「7対3で良性だと思います」と言われたんだから。
でも、その女医さんが予約してくれた検査を専門に行う病院でMRI検査【※】を受けてからなんだよね、雲行きが怪しくなったのは。
【※強力な磁石と電波で磁場を発生させて行う精密検査。コイルと呼ばれる用具を撮影する部位に装着し、ベッドに寝た姿勢で行う。治療前にがんの有無や広がり、ほかの臓器への転移がないかを調べることができる】