制限なしハロウィンで普段より開放的に(イメージ、Sipa USA/時事通信フォト)
昨年、ある喫茶チェーンで「ネットワークビジネス関連の方へ 入店はお控え頂きますようお願いします」という貼り紙が出され、SNSで話題になった。少し前から、このような貼り紙をする店舗は増えており、SNSでコミュニケーションは完結できると言われるようになった世の中でも、やはりリアルでの勧誘がネットワークビジネス、マルチ商法、宗教などでは重要な位置づけだ。ライターの森鷹久氏が、3年ぶりに行動制限がないハロウィンを迎えて、リアルで路上勧誘に勤しむ人たちの様子をレポートする。
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東京・渋谷や大阪・道頓堀など、日本各地の繁華街に何万、何十万人の若者が殺到した、実に3年ぶりの「行動制限」のないハロウィン。その楽しげで、はちゃめちゃな様子はテレビやSNSにユーザーがアップした動画でも確認でき、若者達がコロナ禍で失った青春の時間を少しでも取り戻そうとしているかのようにも見えた。
一方、このハロウィンを窃かに心待ちにし、あの喧噪の中で淡々と「ターゲット」に狙いを定めていた人々がいた。
「あそこにいる男性もそうですよ。さっき通ったコスプレ姿のカップルもおそらくそう。僕も現役時代、ハロウィンの時はかなり頑張ってましたからね」
こう話すのは、一部メディア等でマルチ商法を行っているのではないかと報道された、ある集団「X」に昨年まで所属していたという畑山裕樹さん(仮名・20代)。Xに所属し、繁華街やウェブ上のSNSなどありとあらゆるところで人を勧誘。勧誘した人が「X」に所属すれば、幾ばくかの「バック(※見返りの報奨金)」が畑山さんに支払われる仕組みで、勧誘した人に自らが「X」の関係者から購入した雑貨や化粧品などを転売することでも、わずかながらの利益を得ていた。しかし「X」関連の商売で生活するだけの金を得られることはなく、短期の派遣バイトなどで食いつなぐ生活を何年も送ってきた。
「人を勧誘さえすれば、組織内での立場も上がるしお金も儲かるので、とにかく声をかけまくる。ハロウィンはクリスマスやバレンタインなどと違って、不特定多数、老若男女が待ちにあふれかえり、理由無く、ノリで声をかけても不審がられない。連絡先を交換しまくって、SNSやメールを使って仕事の悩みはないか、裕福になりたくないかと誘う」(畑山さん)
普段であれば、100人に声をかけて連絡先交換にまで至るのは1人か2人。だが、ハロウィン期間中は、その数倍以上、時には10人近くと連絡先を交換できる場合もあるという。
「もちろん路上でも声をかけますが、大衆居酒屋や立ち飲みバーなど、若い人が集まりそうな所を狙います。5~6年前のハロウィン当日など、渋谷のあるスタンドバーには、複数のマルチ関係者がひしめき合っていて、入ってくる客をみんながじっと品定めしていたほど。マルチ関係者にとって、ハロウィンはボーナスタイムのようなものでした」(畑山さん)