数多くの名作に出演し、さまざまな難役を演じ分ける女優・永作博美(52)。観る者を捉えて放さない永作の存在感について『人のセックスを笑うな』の井口奈己監督、共演経験がある大御所俳優・柄本明らが語った──。【前後編の後編。前編から読む】
連ドラデビューはフジテレビの『陽のあたる場所』(1994年)。恋人の暴力で流産するホステスという難役だったが、永作は熱演。以来、どんな役も厭わない“たたき上げ”として、キャリアを積み上げていった。
そして2008年公開の『人のセックスを笑うな』で、37歳にして初めて映画主演を果たす。永作は年下の生徒(松山ケンイチ)を翻弄する美術学校の講師・ユリ役だった。同作でメガホンを取った井口奈己監督が語る。
「原作の小説ではユリはもう少し年上の設定なので、最初は40代の女優さんを探していました。しかし、オファーした女優さんたちは、年齢的にお母さん役など落ち着いた役柄を演じることが多く、タイトルに『セックス』という言葉が入っているために“イメージが崩れてしまう”と敬遠されてしまった」
制作側で話し合い、主演女優の年齢を下げて探していくなかで永作の名前が挙がったという。
初の座長となる現場だったが、永作は落ち着いていたと井口監督は話す。
「撮影中に役に入り込みすぎて重苦しい雰囲気を作る役者もいるなかで、永作さんはフレンドリーで制作陣に負担をかけない。人との距離感の掴み方や現場の雰囲気作りが上手です。ご実家がイチゴ農園ということもあり、現場にイチゴを差し入れてくれた時は女性スタッフが感激していました。
撮影では永作さんの演技に合わせてユリを形作るなかで、小悪魔的なキャラクターになった。松山さんはユリに夢中になる役柄だったこともあり、撮影外でも『ユリ大好き!』という思いを爆発させていましたね(笑)。スタッフも共演者も全員虜にする女優でした」
井口氏は永作を「運動神経のいい役者」と評す。
「撮影台本を書いた段階で最初の脚本とはテイストが異なるものになったのですが、永作さんは『全然違うじゃ~ん』と言いつつも、それを面白がって撮影に臨んでくれた。役者としての運動神経がいいんです。“この場面でこの人物はどんな気持ちか”なんて野暮な質問は一切しない。カメラを向ければこちらの意図を超える表現をしてくれる。
印象的だったのが、劇中でリトグラフ(版画の一種)を刷るシーン。高度な技術が必要とされる作業ですが、永作さんは少し指導を受けただけで上手くできた。指導してくれたプロの先生も驚いていました」(井口氏)